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評者◆秋竜山
時間というものは感覚である、の巻
No.3057 ・ 2012年04月07日




 驚くべきことは、毎日の夕方にやらねばならない雨戸をしめるということ。驚くことは、その雨戸をしめる時、毎日同じことばを口にすることだ。口にすまいとおもっても、口に出てしまう。「さっき、しめたばかりじゃないか」。かくじつに、昨日の夕方にしめて、今日の夕方にしめているのである。昨日の夕方が、さっきと感じてしまうということだ。生活とは時間におわれることなり、ということを証明しているかのようだ。私は雨戸をしめる「ガラ、ガラ」の音と戦っているようにさえ思えてくるのである。野島智司『ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界』(青春新書、本体九四三円)では、カタツムリのことが興味深く書かれている。カタツムリについて説明せよ!! と、いわれたら、どう答えたらいいのだろうか。カタツムリとは、あのカタツムリである。ツノ出せヤリ出せと歌にある、カタツムリのことだ。どうみても貝類だ。肺呼吸をし、陸で生活、形からして奇妙な軟体動物である。それを食べる人間がいるんだから。初めは私もそー思った。ところが、食べてみると、おいしい。カタツムリを見るたびに、なにがうらやましいかというと〈のんびりしている〉ということだ。〈カタツムリはじっと観察するには適した生き物かと思いますが、何だか急いでいるような素振りを見せる時もあり、デジカメの接写で撮影しようとすると意外な速さに驚くこともあります。そうは言っても、一般的なカタツムリの速度は時速に直すと二~六メートルほどで、ヒトにしてみれば何ともゆっくりした動きです。〉やっぱり、うらやましい限りである。問題は知覚時間であるらしい。人間にとっての知覚時間があり、そして、カタツムリにも知覚時間というものがあるのだ。
 〈ドイツの生物学者ユクスキュルはかつてカタツムリに関する興味深い実験を報告しています。〉(本書より)
 カタツムリをつかまえてきて実験してみるなんて、学者なんて子供のようだ!! と思えるのだが、子供そのものだと思う。子供のような好奇心あってのすぐれた学者といえるだろう。
 〈カタツムリが一秒に四回以上の振動を知覚できず、静止しているように感じているのではないかと考え、カタツムリの知覚時間が一秒間に三つか四つという速度で流れていると推論しています。例えば、もしカタツムリ用のテレビアニメがあったとしたら、一秒間に四コマもあれば事足りるということになります。普通のアニメーションは一秒間に二十四コマですから、ヒトにはコマ送りにしか見えない映像が、カタツムリにはスムーズな動画に感じられるということでしょう。〉(本書より)
 カタツムリにとって一秒間に四コマが普通の時間のリズムだという。のんびりユーガな動きをしていてうらやましいと思うのだが、そーでもないようだ。カタツムリにとっては、「いそがしいいそがしい」と、ぼやきながら、時間の流れを感じつつ動いているのであることが想像できる。時間というものは感覚である。私がカタツムリにむかって「毎日がはやくてイヤになっちゃいますね」と、いうと、カタツムリは「のんびりしてられませんよ」というかもしれない。温泉につかって、のんびりする感覚って、どーいうことなんだろうか。







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