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評者◆福田信夫
力作エッセイと評論が目白押し――膨大な参考資料を探し、駆使した捜査手法に驚く「真説眞杉静枝 第21話 高見順と眞杉静枝(2)」(中村俊輔、『朝』)など
No.3055 ・ 2012年03月24日




 今回は長い評論・エッセイが目白押しゆえ、どこまで紹介できるか自信がない。
 まず、『朝』31号の中村俊輔「真説眞杉静枝 第21話 高見順と眞杉静枝(2)」は、眞杉が昭和30年6月に没した後のペンクラブの席で高見が眞杉のことを「あんないやな女はいなかった」と切り出した真意を掴むために膨大な参考資料を探し、駆使した中村探偵の捜査手法に驚く。恋多き美人作家と武者小路実篤や中山義秀のほか、ライバル大田洋子などの女流作家たちとの関わりをすべて高見を介して描くが、結論は読んでの楽しみに。ただ題名どおり長過ぎる88枚に辟易しなければ。
 『異土』4号の松山慎介「中野重治――『ねばならぬ』を生きた文学者」は、中野の『甲乙丙丁』を主な材にして中野の分かりにくさの理由を解き明かす労作162枚で、分かりやすい文章で説得的。同誌の月野恵子「作家尾崎翠に触れて――小説『第七官界彷徨』を中心に」は、「非正常心理の世界」を描いた尾崎の75年の境涯を優しく辿った56枚で、友人やフロイト、『赤毛のアン』、寺田寅彦らからの影響も綴る。
 『あしへい』(河伯洞記念誌)14号は特集・鈍魚庵(東京・阿佐ヶ谷の火野葦平旧宅)で、谷末要一「『鈍魚庵』の今」など3篇と火野の「鈍魚庵独白」「鈍魚庵雑記」が収載され、他に13名が葦平に関して書いているが、江崎将人「葦平全集の意義について」、谷村順一「同人誌展を通して」、小林修典「対馬の作家、竹内重夫」とどれも面白い。特に竹内重夫(一九一七~一九八四)と葦平との関わりや『九州文学』を中心とした九州の文壇の相関図に教わった。
 『群系』28号は《特集》「震災・戦争と文学」で巻頭の永野悟「文芸誌とメディアにみる『3・11』と過去の大災害」から野口存彌「大田洋子と原子爆弾――人間の不幸へ注ぐまなざし」まで合計21編であるが、特集Ⅱの「戦争と文学」で『すばる』11年8月号に掲載された65~78年生まれの若い現役作家6人の読後印象を同人が検証したのがユニーク。
 『同時代』(第3次)31号は特集「扉・門」で富田裕「心の扉を開ける――千年の準備をすること」など7編と詩(7人)、散文は堀内正規「ディキンスン、切岸に立つ詩人」など8編ほかで皆読ませるが、エミリー・ディキンスン(一八三〇~一八八六)の存在と川崎浹が20年前にアンドレイ・サハロフ博士夫妻に会見した様子が心に残った。
 『玉ゆら』35号は、秋山佐和子の「原阿佐緒ノート」(35)、「三ヶ島葭子新資料(28)解説 餅と輪かざり」、「釈迢空の歌(32) 洋なかの島べ」、「東京より来しと答へてしばしの間レジの女性と黙し合ひたり」(「友と会津へ」の18句より)などに惹かれた。
 『女人随筆』125号は、井久保伊登子「日向物語(七)米良街道」と小川孝「私の歩んで来た道(10)――大阪で」など誌名どおりの佳品が並ぶ。
 『架け橋』4号は、特集「忘れられない光景」に25人が寄せるなど随筆が中心の164頁であるが、二ノ宮一雄「わが敬愛する文学者たち(その三)――芥川賞史上最高齢受賞者・森敦」は、昭和43年1月に創刊された『ポリタイア』を介しての森敦との通交ぶりが素直に描かれ、心に沁みた。
 『野火』40「冬号」(創刊10周年記念号)の八城水明「四季万葉(40)冬」は10年間の『万葉集』案内の連載に終止符を打つもので、特集「短歌と私」には30人が随想を寄せている。
 『狼』(第二次)59号の石井昭子「俳句エッセイ『いきてる』」は題のとおり俳句とエッセイを合体させたもので、「『いきてる』とメールそれきり雁帰る」から「敦盛草なびく礼文の荒磯風」までの10編。
 『群獣』13号の長谷川寛「漂流」は新聞社に勤めながら小説を書く作者の苦労をユーモラスに描き、一気に読んだ。登場する久保田正文や野村省吾、寺崎浩、小泉譲ら今は亡き人たちも懐かしく。同誌の巻頭を飾る塚澤正「陸前浜街道の戦い」は戊辰戦争時の小名浜から仙台に至る福島・浜通りの戦いを骨格とした歴史小説で感慨深いものになった。
 『黄色い潜水艦』55号の宇多滋樹「川の風景 橋本」は四十年ぶりに淀川べりにあった橋本遊廓の跡地を訪ね、自らの青春を回想するエッセイ。同誌の島田勢津子「山へ向かう」は前者と異なり、具体的な事件を超えて諦念と寂寥感漂う心理を描いた小説で、「遅い冬の午前に、乾いた枯葉を踏みしめる音を、聴きたいと思った」で閉じられる。なお同誌を作った川崎彰彦さんの墓碑は近鉄橿原線の九条駅から徒歩15分の極楽寺に建てられた(「虫穴を出ずるより吹く春の風」という川崎さんの句が刻まれて)。
(敬称略)
(編集者)







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