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評者◆宇田川拓也(ときわ書房本店、千葉県船橋市)
超常現象から人間がわかる?痛快でためになる一冊
超常現象の科学――なぜ人は幽霊が見えるのか
リチャード・ワイズマン著、木村博江訳
No.3054 ・ 2012年03月17日




 あるマンションの敷地内には、夜な夜なすすり泣く奇妙な石があり、石の泣く夜にカメラのシャッターを押すと不気味な鎧武者の幽霊が写るという――。
 ある画家が自殺しようと、走行してきたトラックに飛び込んだのだが、なんと自分を轢くはずのトラックが目の前で忽然と消えてしまったという――。
 鎧武者の怨念のなせる業か? 道路に異次元への入口が現れたのか? どちらも〝超常現象〟と呼ぶにふさわしい、真に不可解な出来事といえる……。
 なんて雰囲気たっぷりに書いてはみたものの、じつはコレ、怨念の仕業でも異次元のいたずらでもなんでもない。どちらも人間の行動と錯覚によってそう見えてしまったことであり、論理的に解明することが可能である。というのも、本格ミステリ小説のお好きな方なら、前述の文章を読んだだけで即座にタイトルを挙げられるであろう、ふたつの某名作に登場する謎なのだから(さて、あなたはわかりますか?)。
 このように、人間とは自分の理解の及ばない事象に出くわすと、脳が補完機能を発揮して、なんとか納得できる意味を探し出そうとしてしまう生き物であり、そのもっとも手っ取り早い意味付けが「この世ならざるなにかによる~」――つまり〝超常現象〟というわけである。
 プロのマジシャンでもある本書の著者――リチャード・ワイズマン博士は、全七章を用いて、占い、幽体離脱、念力、霊媒師、幽霊、マインドコントロール、予知能力といった超常現象や超能力のからくりを解き明かしてゆくのだが、そこに「そんなものは全部ウソっぱちだ!」と単に切り捨ててしまうような苦々しい態度は一切ない。巧妙な手口で超能力者を演じた者たちの成功と失敗、さまざまな要因で発生した珍しい出来事を「怪奇現象」と思ってしまったいくつもの実例、様々な不可思議に挑み続けてきた研究者たちの苦難の歴史を、ときにユーモアを交えた語り口で紹介しつつ、読みながらすぐに試せるテストや実験の数々によって、人間がいかに自分に都合よく物事を考え、流されやすく、錯覚に陥りやすいかを「ほらね?(笑)」と愉しく教えてくれる。
 この博士のアプローチ――現象そのものを解明するのではなく、人間の脳という自然界の生み出した超高性能マシンがあまりにも精緻な作りゆえ、どんな誤作動を起こすことによって、いわゆる〝超常現象〟なるものをわれわれが錯覚してしまうのかを解明すること――を一読すると、人間という生き物の多くが、これだけ長い長い年月のなかで進化してきてなお、いまだ自分自身を見つめることに関しては、なかなか向上できていないことに気付かされる。もちろんここでいう〝自分自身を見つめる〟とは、「内面や生活習慣を見つめる」という意味ではなく、「人間のそもそもの特性を理解する」ということである。
 たとえば初めて乗る車で悪路を運転するとき、その車種のクセやポテンシャルをあらかじめ知っておいたほうが、運転ミスや事故を引き起こす確率はぐっと減るに違いない。それと同じように、私たちが「人間」という乗り物を操縦して「人生」という波瀾万丈の道を走っていると考えるなら、その特性を理解していたほうが、誤作動に惑うことも、悪い連中に付け込まれることも防げるのはいうまでもないのに……。
 痛快でためになる、いまオススメの一冊だ。







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