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評者◆小嵐九八郎
滅びに身を任せてなおロマンに酔う――齋藤愼爾句集『永遠と一日』(本体二六〇〇円、思潮社)
No.3053 ・ 2012年03月10日




 1月半ばの雪の次の日に、神奈川県の外れにいて、年甲斐もなくはしゃいで坂道ですってんころりん。打ちどころが悪くて腰の骨にヒビが入り、痛いのなんの。咳とくしゃみと笑いのときは「ぎゃっ、ぎゃぎゃーっ」となり、1ヶ月経ってやっと、歩行100分、階段20階ぶんの昇り降りが可能となった。
 こういう時に理屈の書いてある本は暗くなり、小説はどうやら先の人生について楽しんだり教えたりするものらしくてその気にならず、好きな演歌と童謡を一人歌っても恋だの母だのの現実感覚に感情移入できないし、自称歌人なのだが趣味は挽歌にあって、しかし挽歌の秀逸なのを読むと自分のすぐ先のことのような気がして滅入り、アウトですねん。
 というわけで、この3、4ヶ月、机の上に積んでいた新しい句集を読んだ。うーむ、やっぱり、齋藤愼爾さんの『永遠と一日』(思潮社)が抜群にいい。むろん、当方には《人が人焼くや梟の淋しさで》、《狐火やうつむき泣けるは次郎なり》、《深深と乳房混みあう蛍狩》などの句が深いところで記憶に刻み込まれているという理由もある。これらの凄いと言うしかない句の凄みの根拠が、与謝蕪村にある絵画的なロマンからくるのか、短歌ではあるが寺山修司のような取り戻せない土着の回帰性からくるのか、同じく短歌ではあるけれど塚本邦雄のような譬喩の飛翔力からくるのか、なお、なお、俺には定かではないし、解らない。ただし、感動、という点では揺るぎないものをくれる。
 今度の最新の句集にも《青蚊帳を出て戻らざる蛍の身》、《撞かれては紅けぶらせる手毬唄》、《ほうたるの喪服は蔵の中にある》、《切株の芽吹きて永劫の待ちぼうけ》、《蝉殻や山河はふつと掻き消えぬ》などなど、骨の痛む身には快い音楽というのか、滅びに身を任せてなおロマンに酔えた。かなりの薬効を示すのである。あわせて『齋藤愼爾全句集』(河出書房新社、本体4800円)を読むと、全ての句を読めるということになる。
(作家・歌人)







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