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評者◆秋竜山
歌謡曲は風にのって流れてくる、の巻
No.3052 ・ 2012年03月03日




 なかにし礼『歌謡曲から「昭和」を読む』(NHK出版新書、本体七〇〇円)を読む。われらの〈なかにし礼〉の「昭和歌謡」の真髄。なかにし礼、あってこそ、歌謡曲という時代があった。歌謡曲を変えた作詞家でもあった。そして、今でも、なかにし礼の作詞した歌がいきつづけている。
 〈平成の時代も二十年をとうに越えた。ということは、歌謡曲の終焉からも、すでに二十年以上がたったわけだ。などと書くと、すぐにも反論がありそうだ。(略)こうして、歌謡曲は昭和という時代と併走し、時代を映してきた。歌謡曲の役割と、歌謡曲を必要とする世の中は、いつまでもつづくかに思われた。ところが、歌謡曲の世界が消滅する日がやってきた。それは皮肉にも、ずっと歌謡曲が見つめつづけ映しつづけてきた時代の転換によってもたらされた。昭和から平成へと移るころである。〉(本書より)
 なぜだ!! ということになる。昭和に歌謡曲が流行し、平成に移ると同時に流行が去ってしまった。昭和という時代と平成という時代、年号の名前によってだろうか。そんな、バカな。昨日まで昭和であり、今日から平成である。昭和の夜、フトンに入って寝て、次の朝である、昭和の朝に、そのフトンの中で眼ざめる。それだけのことだ。昭和と平成と、人間が入れ変わったわけでもなく、同じ人間である。のに、歌謡曲なしではいられなかった日常の中に、歌謡曲が消えてなくなってしまったかのようだ。歌謡曲は生き物であって、どこかへ立ち去ってしまったのか。
 〈戦後の歌謡界は、その歌謡曲のインフラとテレビという新しく強力なメディアを媒介として発展してゆく。そして昭和三十年代後半、音楽出版社というまったく新しい業態・システムの導入により、若く能力のあるフリーの作家たちが歌謡曲制作に参加したことで、昭和四十年代~五十年代には一挙に歌謡曲の黄金時代を迎えることになる。(略)しかし、一九七〇年代(昭和四十五~五十四年)の歌謡曲の黄金時代は同時に、歌謡曲が終焉へと向かう道のとば口にもあたっていた。そのキーワードは「デジタル」であり、具体的にはコンパクト・ディスク(CD)の爆発的浸透である。(略)一方、歌謡曲の実作者として最初CDにふれたときに思ったのは、「これで音楽が変わるな」というものだった。〉(本書より)
 そーいえば、その時から風がピタリとやんだように思える。私にとっての歌謡曲は、どこからともなく遠くの方から、風にのって、歌が流れてくる。と、いうものであった。美空ひばりの世に出はじめた頃の一連の歌声が風となって飛んできた。風の歌であった。歌謡曲というものは、そーいうものであった。「黒い花びら」が、風と共に聞えてきた時は、俺は今、生きている!! なんて思ったものだ。少年時代の社会人であり、大衆食堂の前を素通りする。ポケットに百円しかなかった。……なんて、思い出してしまう。銀座の街を山口百恵の歌が風にのって流れていた。日本中、どこへ行っても、歌謡曲の風が吹いていた。それが、今は、ピタリとやんだままだ。しょうがないから、昔の歌を聞いてなぐさめている。「アア……昔はよかったなァ……」なんて、なつかしむのもよいが新曲の大ヒットの歌謡曲を「なかにし礼さま、お願いいたします」。







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