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評者◆トミヤマユキコ
雨宮まみという「こじらせ女子」の降臨がもたらす福音とは?
女子をこじらせて
雨宮まみ
No.3049 ・ 2012年02月11日




▲【あまみや・まみ】1976年、福岡県生まれ。AVライター。投稿系エロ雑誌の編集者として働いた後、2002年からフリーに。AVレビューやAV監督へのインタビュー記事の執筆はもちろん、女性限定のAV紹介イベントを開催するなど、「女性のためのエロ」というテーマの掘り起こしにも余念がない。『女子をこじらせて』(ポット出版)は初の単著。

 「女子」というものは「こじらせる」可能性があります……そのことを世間に知らしめた雨宮まみは偉い! 偉すぎる!

 女子の自意識に巣食うモヤモヤ感、より具体的には「なにをやっても”いわゆるフツーの女”からはほど遠いんだよなぁ、わたし」という感覚。ぶっちゃけ自分より劣るような女子だって堂々と「女やってる」のに、なぜわたしはこんなに「女/メスである自分」に違和感をおぼえてしまうのか。それをうまく言い当てることができずにいた人々に向かって彼女は「それはね、女子をこじらせているからだよ」と告げたワケです。

 言うなれば、いくつもの病院をたらいまわしにされ、原因不明と言われ続けてきた不治の病に実は名前がありました、みたいな「病名がハッキリして嬉しい!」という状況に近いかも(でも病気だけど)。ちなみに、わたしはこの不治の病に「己蔑み病(おのれさげすみびょう)」という名前をつけていたのですが「こじらせ」の方が百倍センスあるし的確、と判断して即座に「こじらせ」に乗り替えましたよ、ええ。

 「女/メスである自分にまったく違和感ナシ」という存在に憧れながらも、手が届かない、届く気がしない。わたしなんかどうせバカだしブサイクだし非モテだし……などと、自分をどこまでも低く見積もり続けているうちに、いつしか本気で自分を見失ってしまうのが「こじらせ女子」の厄介なところ。

 「私は自分が「女である」ことに自信がなかった」「男女のエロに興奮すればするほど、「自分はこんな興奮を男に与えられる女ではない」という現実が重く重くのしかかってきて、絶望感に打ちひしがれるのです」――第一章の時点で既にこのボリューム感。そして「あとがき」でも「自分ごときが「いい暮らし」とか「素敵な住まい」とか「理想のインテリア」とかを手に入れる資格はないって思ってた」と書き出す始末。

 こじらせていない人が読んだら「めんどくせぇ女だな!」と思うでしょうけど、たかが引っ越しでここまで考えてしまうのがこじらせ女子という生き物ですし、これを読んだ全国のこじらせ女子たちの胸中に共感の嵐が吹き荒れていることは想像に難くありません。

 しかし、ひとことで「こじらせ」と言っても、百人いれば百通り。ましてや、AVライターという生業を選んだ雨宮は、こじらせ女子の中でも特殊な方だと言える。それなのに、なぜ彼女の「自分語り」が共感を呼び得るのか。それは「自虐」という、こじらせ女子の伝統芸能に逃げることがほとんどないからです。

 「一日8回オナニーしては、虚しさに泣きました。自分はこのまま誰にも触れられずに死んでいくんだと思うと、悲しかった。けど勇気を出すことなんてできなかった。自分には恋愛とか、そういうことは許されていない、そういうことを話題にすることすら気持ち悪い人間なんだと思っていました」。プロのライターである雨宮には、このくだりを自虐混じりに面白可笑しく書くことも出来たハズなのに、直球勝負に出ている。ド真ん中のストレート。泥まみれ、傷だらけ、正真正銘のスポ根です。

 そして彼女が全力で投げた球を受け取った読者は、自らもまた直球を投げ返してみたくなる。ていうか雨宮先輩! わたしの20代も「誰にも触れられずに死んでいく」という恐怖感とともにありましたが、先輩のような思い切りの良さがなかったためテレクラとかは怖くて利用できず、ネットで出張ホストのページを見るだけの日々。そんなもん見たところで不安が解消されるワケもなく、ほんと、心の底から惨めでしたよ! そして、先輩の本がこの世に存在しなければ、このような形でわたしが自分の経験について自虐を交えず語ることは恐らくなかったと思われます!

 ……すみません自分語りの誘惑に勝てなくて。しかし「こじらせの語り方」のモデルケースを示し、「自分の経験について自分の言葉で語ってみたい」というこじらせ女子の潜在的欲求を掘り起こしたことこそ、本書の最も評価すべきポイントなのではないでしょうか。

 ただし、ここにはひとつの困難があることを忘れてはいけません。それは全てのこじらせ女子が自分の経験を語れるわけではないということ。こじらせ女子たちが、その経験を語るかどうかをめぐって分断され「語る言葉を持たない」「語る勇気が出ない」女子たちが出てくることは避けられないのです。

 だから「自分がこじらせたことを書くだけ書いたらすごいスッキリ」した雨宮先輩にはたいへん申し訳ないことですが、この先も「こじらせ自分語りのパイオニア」として辛抱強くこじらせ女子の行く末を見つめ、仲間たちに語る言葉と語る勇気の双方を与え続けて欲しい。そう願ってやみません。
(ライター)(@tomicatomica)







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