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評者◆秋竜山
マンガのような岡本太郎、の巻
No.3048 ・ 2012年02月04日




 岡本太郎『強く生きる言葉』(イースト・プレス、本体一〇〇〇円)の発行日は二〇〇三年とある。古い本である。二〇一一年に第二九刷発行とある。初版は古いかもしれないが、売れているということは、古いけど古くないということだ。読まれている限り古くならないということかもしれない。初版の十年前に読んだとしても、忘れてしまうものだ。だから、十年後に書店に並べられていたら、また買わされてしまう。
 〈岡本太郎が普段の生活の中で、動きまわりながら、ふっと洩らす言葉。何気なく聞き逃してしまえばそのまま消え失せて、二度と戻ってこない。だがその片言が噛みしめてみるとユニークで、とても面白い。宙に拡散してしまうには、あまりに勿体ない。私はくっついて歩いて、一言も聞き漏らすまいと、しょっちゅうメモをとっていた。あっちへ飛び、こっちへ飛びするのだが、彼の生き方の筋は一貫しているから、まとめて読み返してみると独特の哲学、人生論になっている。この本はそういう彼の、ふっとつぶやく気配、息づかいがそのまま伝わるように構成した。〉(本書、岡本敏子)
 で、わかるように、岡本太郎は岡本敏子あってだろう。もし、二人の岡本太郎がいたとする。しかし、岡本敏子は一人。岡本敏子は二人の岡本太郎にくっつけない。どちらか一人の岡本太郎にくっつくことになる。敏子がくっついたほうが、岡本太郎であり、敏子がいない岡本太郎は岡本太郎ではないことになってしまう。二人の岡本太郎が、まったく同じことを言ったとしても、敏子によってその言葉だけが残る。敏子のいない太郎の言葉は残らない。本書を読みながら、岡本太郎は瞬間的言葉の天才だと思う。どの短文(言葉)を読んでもマンガのセリフのように思えてくる。岡本太郎自身がマンガのようだから、そのマンガの人物からマンガ語が飛び出したとしても不思議はなかろう。
 〈自分――他人が笑おうが笑うまいが、自分の歌を歌えばいいんだよ。〉(本書より)
 と、岡本太郎はいう。岡本太郎らしい。その、らしさゆえに、別に問題はないのである。岡本太郎だから、ゆるされてしまうのだ。「その意味はわかるよ。わかるけど、そんなこと通用するわけないんだよ。岡本太郎だったら通用するんだろうけど、ね。ハハハ……」と、いうことだ。これを、岡本太郎にぶつけてみたいものだ。「岡本さん、あなたが言うことだから通用するかもしれないが、他の人が、そんなこと言ったら相手にされませんよ」と、ね。岡本太郎はなんていうだろうか。
 〈ぼくは――ぼくはこうしなさいとか、こうすべきだなんて言うつもりはない。〝ぼくだったらこうする〟というだけだ。それに共感する人、反発する人、それはご自由だ。〉(本書より)
 岡本太郎の本を読むと、元気になる。なぜだ!! つまりは、マンガのようなことを言っているからである。だから面白くて元気がでてくるのだろう。マンガでないような言葉は面白くない。
 〈中年――中年を過ぎると、人生に対する意気込みがにぶるものだ。その結果、生命が惜しくなってくる。これは人間としての堕落だね。〉(本書より)
 生命が惜しくなってくることを人間としての堕落だとは、これも岡本太郎的なのか。ちっとも面白くないし、笑えないし。あたり前すぎるから。







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