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評者◆小嵐九八郎
そこに、確かに在る、命とともに――『小泉淳作作品集』(本体九〇〇〇円、講談社)
No.3048 ・ 2012年02月04日




 我が秋田県能代へ帰る時、十五年以上前は奥羽本線か、日本海を見れる羽越線回りか、盛岡から田沢湖線に乗り換えてトコトコたっぷり時を費やしていた。今は、秋田新幹線を使う。が、盛岡からは急に遅い走りとなる。その時、運が良いと、雫石を過ぎるあたりから、右手に、岩手山を臨むことができる。どでかい褐色の塊が迫ってきて、右肩下がり、左肩が緩やかという姿に、息を呑み、吐息をつく。
 そして、十二、三年前、この岩手山をまともに見上げ、ぶつかる絵ハガキを友達からもらい、おおっ。絵は縮小されているのに実物の岩手山以上の存在感があったのだ。この間、一月九日、八十七歳で亡くなってしまった小泉淳作さんの日本画である。
 それから、北海道の帯広近くの中札内の小原美術館を訪ね、放っておいた蕪が、あばた顔の球なのに、春の気配で根を伸ばし、茎の切り口から新芽を吹き出す絵を見、山岳だけでなく、植物の生命力まで引き出しているのにいたく感激した。
 買った画集の冬瓜の絵もまた、「そこに、確かに在る、命とともに」の静謐の中の、ごーんとした響きに満ちていた。人人の好む芙蓉や、牡丹、泰山木の絵も妖しさをしっかりと肯定し、そこにある生命への讃歌を隠さない。もしかしたら、人人を楽しませ歓ばせるその果て、究極というのが美なのではと、俺に、勝手に思わせた。山岳の絵を墨で描いているうちに山岳と墨とおのれが膨れあがり、ほぼ真っ黒けという絵にも執念と、物書きや詩人歌人の宿業すら暗示させる。
 六十になってやっと絵で食え、しばしば見る芸術家とはまるで別、権威・勲章なんつうのはどこ吹く風、弟子も縄張りも作らず、建長寺、建仁寺に竜のどでかい絵をも描き、書名、落款など、辞退したという。俺みたいな駄目作家にすら、「学ぶところが必ずある」と三度、鎌倉の居酒屋で御馳走してくれた。
 講談社刊の『小泉淳作作品集』(本体9000円)で、全貌は無理としても核が解る。
(作家・歌人)







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