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評者◆秋竜山
他人の日記を読むたのしさ、の巻
No.3047 ・ 2012年01月28日




 見せたくないもの、といったら。女性だったら、自分のハンドバッグの中身だろう。他人はもとより。亭主にだって見られたくないだろう。日記も同じだ。ハンドバッグの中身も日記の中身も、見られたら恥ずかしいから、かくすべきものだ。そんな、恥ずかしいものを、女性は外出する時は、手にしている。ハンドバッグは死んでもはなすなという教訓のようなものもあるらしい。そんな、恥ずかしがるものだから、こっちとしては、のぞきたくなるのが人情というものだろう。そんなに恥ずかしい中身であったなら、持って外を歩くなといいたいくらいだ。日記もそーだ。日記というものは、こっそり書いて(いや。こっそりつけて、というべきか)、こっそり、誰も気づかない場所にかくしておくべき性格のものであろう。その日の書かねばならぬことを書き、かくしておくべきはずなのに、うっかり机の上に置き忘れてしまった。机の上に置かれてある亭主の日記。亭主がいないのをさいわいに、盗み見する。なんて、こともあるだろう。亭主、女房に、「お前、見ただろう」「いや、見た。絶対に見たはずだ」なんて、わめく。女房「なにいってんのよ。見ませんよ。なによ、そんなもの。あなたの日記なんて、さらさらキョーミありません。バカ馬鹿しい」。こーいう女房の態度に亭主は、どのような気持になってよいのだろうか。その日の日記にも書けない、張りあいのない事実である。このような、マンガのようなものを秘めているのが、ハンドバッグであり日記であると思う。山本一生『日記逍遥 昭和を行く――木戸幸一から古川ロッパまで』(平凡社新書、本体八〇〇円)では、日記がマンガのような性格でない。もっと、まじめなものである。オビでは、〈これぞ日記読みの醍醐味。〉というコピーがある。他人の日記を読むたのしさ、ということだ。「よくも、私の日記を盗み読みしたな!! ゆるせん」なんてことはないだろう。読まれて困るようなことは書いてないよーだから、ね。日記にもいろいろあって、有名人の日記、無名な人の日記。日記に登場してくる人も有名人であったり、まったくわからない無名な人であったりする。そして、日記というものは、けっして他人に見られては困るということは書かないことである。「こんなことを他人に読まれては、恥ずかしくて生きてはいけない」なんてものや、「この日記がある以上、死ねない」なんてものもあるだろう。そんな内容なその日のできごとは、書くべきではない。いや、まてよ。見られてもよい日記と見られては困る日記を書いて、見られては困る日記を、どこかへ、かくしておけばよいだろう。ところが、そーいう日記ほど、すぐ見つけられるものである。
 〈「此の日記、なまじの小説よりは、後年読んで面白い」と古川ロッパがうそぶいた〉(本書より)
 本書では、〈矢部貞治日記、木戸幸一日記、有馬頼寧日記、笹川良一日記、石射猪太郎日記、中原延平日記、古川ロッパ日記、内田収三日記〉などが取り上げられているが、一般的に知られているのが古川ロッパだろうか。
 〈古川ロッパ日記は、この友人との交わり(鈴木文史朗)を次のような言葉で閉じている。「在りし人の消えて失くなるふしぎさよ」〉
 そして誰もいなくなり、日記だけが残る。







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