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評者◆小嵐九八郎
類としての女性への批判的洞察力――山下聖美著『女脳文学特講』(本体一五〇〇円、三省堂)
No.3047 ・ 2012年01月28日




 戦争の体験はないが、戦争中の1944年生まれの当方にとって、最も日本で激的に変わったと映るのは女性の存在である。俺だけではないはずだが、母親とは子殺しとは無縁の無限の包容力を持ち、道徳を持つ厳しさも秘め、一方で、異性としての女性は優しさと清さと謎そのもので神秘の肉体を持つものと信仰していたし教育されてきて脳や感覚、心情まで染めあげられていた。
 この雰囲気は、1968年をピークとする学生の反乱期にバリケードの中の恋愛激発でもあまり変化はなかったと思う。証しに、ウーマンリブのピンクヘルが登場するのは、闘いの盛期の終わった1972年頃と記憶している。
 その中で驚いたのは、十年ほど前に読んだ、アメリカ女性作家ドウォーキンの『インターコース』での、強かんと性交の線引きは不可能、もっというと、性交自身が男の我が儘とも映る発想、そして、同じくアメリカの女性弁護士マッキノンの『ポルノグラフィー』の、あらゆるポルノは免罪されない、旨と思われる考えだ。そもそも、二人が、全女性を代表して主張しているとの思い込みにも降参したけれど。
 以来、この手の本を読む前には、人類史で果たしてきた男の悪さを二日ほど反芻して、鎮静剤を目の前にしてから読む癖がついた。
 林芙美子、尾崎翠、與謝野晶子、平塚らいてう、伊藤野枝、野上弥生子、金子みすゞが俎板に載っていると聞くと、また反省と鎮静剤が必要かと思ったけど、まるで予想外の楽しい本に出会った。推定38才の山下聖美さんという女性の学者の『女脳文学特講』(三省堂、税別1500円)だ。
 なぜ楽しいかというと、芙美子の貧しさの底で稼ぐという文学のかけがえのない生命力を発見させてくれたり、らいてうの件から“若いつばめ”という言葉が生まれたり、知っているつもりだった逮捕中に虐殺された野枝の別の必死な思いなどを、学的だけでなく、ジャーナリスティックにも記しているゆえだし、類としての女性への批判的洞察力に溢れているためだ。差別的男と、草食系若者は読むと、実に、賢くなれると保証する。
(作家・歌人)







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