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評者◆内堀弘
小沢書店の影――果敢な仕事の果てに消えていったリトルプレスは、刺し違えるように書物を遺した
No.3044 ・ 2012年01月01日




某月某日。2011年の夏、青山の流水書房で「小沢書店の影を求めて」というブックフェアがひらかれた。
 七十年代以降の大量出版・大量消費の時代に小沢書店は印象深い軌跡を残した。文芸書をとにかく丁寧に造り、それはリトルプレスの真骨頂にみえる。いや、リトルプレスといっても28年間で600点以上を送り出したのだ。足跡は大きい。しかし2000年、この「大きな」リトルプレスは倒産。姿を消した。
 幕を閉じて十年以上になる。もちろん、このフェアに小沢書店の出版物は一冊もない。それでいて小沢書店を、その時代を浮き彫りにさせる。そんな想いに溢れた棚が作られた。このフェアを企画したのが秋葉さんという若い書店員だった。
 11月の午後、西荻窪で秋葉さんと小沢書店の元社主長谷川郁夫さんとのトークイベントが開かれた。
 ところが(というか、やはり)話は弾まない。秋葉さんの熱い思いに引きずり出されたのだろうが、十年では言葉にできない、いや、まだ言葉にはしたくないことがあるのだろう。「申し訳ない、そのことはまだ思い出したくないんだ」、そう言って長谷川さんが黙ってしまう場面が何度もあった。秋葉さんも、それを都合のいい言葉で埋めようとはしない。沈黙に寄り添い、しばらくしてまた問いを発する。
 私はそれを気まずい沈黙とは思わなかった。むしろ、生の小沢書店を強く感じることができた。果敢な仕事の果てに消えていったリトルプレスは、刺し違えるように書物を遺していくものだ。古書の世界で、私はそんな書物に出会ってきた。どうして、そうまでして本を作ろうとするのか。それをうまく説明できる言葉があるとは思えない。ただ、それでも作り続け、潰えていくのだ。そして、書物だけが遺る。
 長谷川さんは書肆ユリイカの伊達得夫や第一書房の長谷川巳之吉の評伝を、まるで呼び戻すよう書き上げている。いつか秋葉さんが小沢書店・長谷川郁夫の評伝を書くのだろうか。そんな話をすると「じゃあ、秋葉君より先に死ねないな」、照れくさそうに長谷川さんが笑った。
(古書店主)







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