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評者◆ベイベー関根
天才たちの2冊目対決! ツチカVS春子!――西村ツチカ著『かわいそうな真弓さん』(本体六一九円・徳間書店)、市川春子著『25時のバカンス』(本体五九〇円・講談社)
No.3042 ・ 2011年12月17日




 まあ、2冊目っていうのは大切だよな。特に、「スゲエのが現れた!」と思われちゃった人にとっては(そういや、この連載では2巻目を取り上げることが多いんだよな)。地獄のミサワなんか、『カッコカワイイ宣言!』の1巻はあんなに面白かったのに、2巻では早くも殺人的なつまらなさだ。
 しかし、そこを乗り越えてこその天才よ。処女短篇集『なかよし団の冒険』を取り上げそこなった身としては、西村ツチカが『かわいそうな真弓さん』で前作以上に輝いてくれてるのがうれしくてしょうがないというもんだ。
 絵もお話もキュート&ストレンジ。そして、これが天才の証しだが、何か新しいところを切り拓いちゃったぞ感がすべてのページから漂ってくるところがなんとも素晴らしい!
 前作ではいろんな描き方を試していた観があったが(これも天才の証しのひとつ、高野文子と高浜寛を見よ)、そこを絞りこんだ本作では(限定版付録の「アンダーグラウンド」除く、だがこれはなんとか入手してほしい!)、シャープな線が時代を追い越そうとするように見える一方、海外の絵本か中村宏を思わせるちょいと懐かしいところも見せてくれるのだ!
 少年少女の心の揺れを描く前半も楽しいが、若返っていくおばあちゃんをめぐる家族の右往左往(?)を描いた表題作の超『バンドワゴン』なミュージカル・シーンには震撼せざるをえまいて。そういえば、『なかよし団』には、38歳だが小学生にしか見えない女性とデートする男の話があったな。
 急いで次に行こう、『虫と歌』がどうも高野文子くさくて敬遠してた市川春子の『25時のバカンス』だ。これももうここまで来たら取り上げないわけにいかんでしょということで、彼女自身にしか描けない境地に到達してます認定だ!
 表題作は、製薬会社の深海生物圏研究室で働く天才の姉と12歳年下のカメラマンの弟の物語。久しぶりに弟と会った姉は、ある夜海辺で自分が新種の貝に侵食され尽くしている姿をさらすのだった……。
 まー本当だったら、これだけでも充分おなかいっぱいなお話なんだが、そのほかに2篇も収録されていて、ここまで来たらお買い得というべきだろう。全体の雰囲気は、しんとした静けさの中にかわされるひそひそ話、光と闇のコントラスト、鳩山郁子を彷彿とさせる硬質なイメージ、禁じられた愛、抑制されたエロチシズム……といったところかな。この人も「天才」が好きらしいけど、松本大洋のそれとは違って「孤高」ではなくて「孤独」に向かうところがいいな。ただ、個人的には、欠損を物語のエンジンにするのは止めた方がいいと思うけどなー。
 さて、西村ツチカとは『リュウ』つながり、市川春子とは姉弟(兄妹)愛つながりということで、その交点にいるのが、ふみふみこ『女の穴』で、これもすごくいいんだが、残念ながらスペース切れ、2冊目で取り上げることとしようぞ! ということで、うまいことオチがついたかな?
(セックスシンボル)







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