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評者◆竹原あき子
装丁はまだ見ぬ物語への扉
No.3042 ・ 2011年12月17日




 書籍の装丁、本のパッケージを見ただけでも手に取ってみたい誘惑にかられることがある。まるでレコジャケ買いのように。
 村上春樹の小説は、日本的でありながら非日本的な魅力に包まれ、その多くが翻訳され世界を駆け巡った。フランス語になった『羊をめぐる冒険』、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、『ダンス・ダンス・ダンス』、『象の消滅』、『ノルウェイの森』、『ねじまき鳥クロニクル Part1・2・3』、『国境の南、太陽の西』、『神の子どもたちはみな踊る』、『スプートニクの恋人』などの装丁はどれも見事だ。なかでも神戸の震災直後に発表した『地震のあとで』に一編をくわえた『神の子どもたちはみな踊る』の表紙は、能面のようでありながら能面ではない、だがアジアの真っ白な頭が三つ、黒の紙面をただよう秀逸なデザイン。村上本のどの装丁も、日本的なものを遠くに見ながら、だからといってヨーロッパそのものでは決してない装丁をこらして作品を表現している。日本で出版されたオリジナルな装丁より良質かもしれない。英語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語と国境を超えて、同じ小説が異なる装丁となって登場する姿が比較できるのは、村上作品の別の楽しみかただ。ところが2011年8月、発売の1カ月ほど前から鳴り物入りで宣伝された『1Q84』の仏訳が書店に平積みになった姿にはがっかりした。墨で描いた笹の葉が日本産ですと呼び込む。場所と時代が交錯し、その混乱を楽しませる小説のこれまでのような装丁を離れ、正面から日本を指し示すこの『1Q84』の装丁にデザイナーの力量を疑った。
 装丁はまだ見ぬ物語への扉なのだ。その扉を日本という釘で封印するデザインは、読者の好奇心に水をかけるようなものだ。(写真は筆者)
▼村上春樹著、Helene Morita訳『仏訳 1Q84』2011年8月刊、Belfond
(和光大学名誉教授・工業デザイナー)







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