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評者◆伊達政保
難民となった日本人は今後どう生きるか――東浩紀編『小松左京セレクション1 日本』(本体九五〇円、河出文庫)ほか
No.3042 ・ 2011年12月17日




 7月亡くなったSF作家小松左京に関して、河出書房新社から東浩紀編『小松左京セレクション1 日本』(河出文庫)、KAWADE夢ムック『文藝別冊 追悼・小松左京 日本・未来・文学、そしてSF』が出版された。「セレクション1」は単なる短編集ではなく、主題を日本として、短編ばかりか、まえがき、エピローグ、長編抄、あとがきからも選択し、1戦争、2経済成長とその影、3SF的、日本的、4『日本沈没』より、と項目別にまとめた画期的なものである。ムックは同時代作家、星新一、筒井康隆、手塚治虫、山田正紀や以後の作家、批評家による小松論、対談や座談会による追悼トークなどにより、多角的視点から作家小松左京をあぶりだしている。これらを読んでいて、再び気が付いたのだ。オイラにとって小松左京は社会科学、哲学の入門書のようなものであり、社会批判の原点であったと。
 最初に読んだのは中学生の頃、SF長編小説と冠された『日本アパッチ族』だった。荒唐無稽な活劇小説という思いで読んだ。以後、ハヤカワSFシリーズ『地には平和を』、日本SFシリーズ『復活の日』をはじめとして、刊行されるごとに読んでいった。高校時代の愛読書といえば小松、筒井康隆などのSF、大藪春彦、五木寛之だった。大学時代、闘争の中で、反戦思想、近代文明批判、戦後社会批判、戦後民主主義批判、スターリン主義批判、大学批判など何の違和感もなく受け止められたのは、小松左京などの下地があったからだ。オイラばかりではない、サルトルもマルクスもレーニンも読んだことのない多くの人間が、圧倒的な現実の力によって、急激に左傾化していき、理論的学習の並行なしに闘争に飛び込んでいったのだ。
 小松左京はバラ色の未来は描かない。いくつかの作品はパラレルワールドの手法を借り、未来を遡及的に捉えるという方法論で物語を展開する。根底には、この現在は我々が望んだ戦後だったのか、民主主義だったのか、という問いがある。処女作「地には平和を」は日本は本土決戦で敗北した方がよかったのではないかと思わせる内容だ。太田竜は政治的総括として、この小説を高く評価していた。ベストセラー『日本沈没』は東日本大震災、原発事故以後、再評価されている。しかし、本の最後には難民となった日本人は今後どう生きるか、という問いかけがなされていた。現在、実質10万人以上ともいわれる放射能による避難民(30年、40年近くも戻れないとされる)が、日本の中に生み出されている。小松左京が問い掛けた課題が、国内とはいえ現実のものとなってしまったのだ。もはや避けて通るわけにはいかない。
(評論家)







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