書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆竹原あき子
たった二人の小出版社の快挙
No.3040 ・ 2011年12月03日




 『INDIGNEZ‐VOUS!(アンディニエ・ヴー)』を書店で買い、手にもったまま通りに出た。すると「アンディニエ・ヴー」という叫びが後ろから迫った。まだ10代の男の子どもたちの声だ。学校でも話題の本だった。書名のアンディニエ・ヴーとは憤れ、怒れ、抵抗せよ、を一つにしたような意味。たった23ページの本が、35カ国、27言語に翻訳され、1年で220万部をこえるベストセラーになった。ハリー・ポッターのように、読者は小学生から高齢者まで、あらゆる年齢層に支持された。
 著者ステファン・エッセル93歳。第二次大戦中レジスタンス活動に入り、ユダヤ人ゆえ強制収容所に送られたが、脱走して生きのび、戦後の国連で世界人権宣言の起草にかかわった左翼の思想家である。
 〝(本書の扉に配した)パウル・クレーの作品「新しい天使」が両手を広げた姿からワルター・ベンヤミンは、進歩と呼ぶ嵐を両手で押し戻そうとするメッセージを読み取った〟とエッセルは語り、ナチに追いつめられ死を選んだベンヤミンの悲劇こそ抗いがたいカタストロフからカタストロフへの歴史だと説く。
 だからファシズムに、貧富の差に、人種差別に憤慨せよ。21世紀を生きる若者諸君、無関心はいけない、ヨーロッパの「もっと沢山」という進歩の価値をラジカルに否定せよ。憤ることが社会参加だ、だがあくまでも非暴力で、とのメッセージを送る。そして最後に〝創造、それは逆らう事。逆らう事こそ創造〟と結ぶ。
 しかし、このエッセルの呼びかけに新しさはない。フランスである程度の教育を受けた人間にとっては織り込み済みの思想だ。にもかかわらず、国内だけで70万部ちかく売れた事実にこそ注目すべきだ。未来が見えなくなったフランスの社会が無意識に求めた救いの著作だったのかもしれない。
 『INDIGNEZ‐VOUS!』は屋根裏部屋で始めた、たった二人だけの名もない出版社の快挙だった。
▼Stephane Hessel著  『INDIGNEZ‐VOUS!』2010年刊、indigene
(和光大学名誉教授・工業デザイナー)







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約