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評者◆ベイベー関根
『ファン・ホーム』とは「楽しい我が家」という意味(だけ)ではなかった。――アリソン・ベクダル著、椎名ゆかり訳『ファン・ホーム』(本体二五〇〇円・小学館集英社プロダクション)
No.3038 ・ 2011年11月19日




 いやー、いろいろあって大変ですなあ。こっちもなにかと忙しくて、この原稿書くのも半年ぶりになっちゃった。書き始めるにあたって、前回の原稿見たら、最後に「最後にひとこと、ファッキュー東京都民!」って書いてあって笑った。
 それはともかく、半年前から書くことだけは決めててズルズル引きのばしてきた作品が、アリソン・ベクダル『ファン・ホーム』だ! 結論から先にいうが、まだ持ってない人は今すぐ本屋に走れ! いや、置いてない可能性も高いから、ポチってくれるのでも充分だが、とにかくこれが売れなかったり話題になんないんじゃ絶対マズいんだって!
 著者のベクダルはマンガ家/アクティヴィストで、いつもは新聞に『Dykes to Watch Out For』というレズビアン・コミュニティの日常生活を描いた作品を連載している人だったんだけど、いきなり発表した(完成まで7年かかったらしいけど)自伝的作品である本作はあっという間に斯界の注目を集め、全米批評家協会賞の最終候補作品にまでのし上がったのだった!
 昔、原書で読み始めたら、あまりに面白いんで、東京‐京都間の新幹線の中で全部読んじまい、興奮のあまりずいぶん周りの人にも吹聴したんだが、こうして日本語で読める日がこんなに早く来るとは! 感激だ!
 さっそく内容の紹介。アリソンの父親は厳格で神経質な国語(=英語)教師、母親はアマ劇団で活躍する女優。幼いころから女らしい格好がキライだったアリソンは、大学の寮で暮らし始めて自分がレズビアンであることを自覚するが、ある日、母から父が少年にいたずらをして警察に捕まったという連絡を受ける。父はゲイだったのか? しばらくして、父が亡くなったという報せが……。
 というわけで、アリソンと父親との関係を中心に、時系列をシャッフルしながら物語は進行する。その章立てがまたスゴくて、それぞれジョイスとかカミュとかフィッツジェラルドとか、現代文学(作家)を下敷きにしているんだな。子供のころは父親とぶつかることも多かったアリソン、高校に入ってからは自分でも英文学に興味をもつようになり、父親との接点もうまく見つけられるようになったわけだから、これは必然性のあることなんだけど、現代文学を齧ってる人にはさらに奥深さが楽しめることだろう! たぶん!
 これくらいじゃ本作の周到さ、素晴らしさは全然説明できないが、まあとにかく読んでみって。マンガの可能性の一端はここにあり! 訳者の椎名ゆかりも、この難しい原作に対して、実にGJ! こんな地味で、しかも全ページ2色の本を、この出版不況の中で出してくれた小学館集英社プロダクションに最敬礼!
 この原稿書くのが遅れたのは、『The Essential Dykes to Watch Out For』を読んでたからで、最初の方で絵がド下手なのは笑えるが、これはこれで実に興味深い作品だから、特にアクティヴィストの方々にオススメしとこう。
(セックスシンボル)







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