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評者◆小嵐九八郎
美の世界は不思議――五木玲子画集『天の花 地の花』(本体三八〇〇円、柘植書房新社)
No.3038 ・ 2011年11月19日




 反省しても67才の老人になってしまい、もう遅い。が、高校時代、芸大へ進みたく、でも母親から「おめの姉と同じ道は、駄目だア」と叱られ、私大の普通のところへ行くしかなくなり、この時の思いが続き「美」への憧れと、一方で貶してしまう谷間に揺れてきた。
 その上、二十ウン年間やっちまった革命運動のへんな癖が重なり、ヘーゲルの『美学講義』の「芸術は終わった」旨に、こいつは資本主義の発展での「芸術」の利潤についてまるで解っていねえとなり、吉本隆明さんの『言語にとって美とはなにか』で言語の構造分析は立派としても、言語以前とか沈黙とか、もっといえば記号としてのこの人の好きな「幻想」についてまるで視野外で「んだどもにゃ、違うど」となった。物書きとなって画家の人生を書くことがあり、今道友信さん編の『講座 美学』なども読み、のっけから「美は――真・善・美」なんつうてトートロジーで、美学史の丁寧さ以外、はっきりいってアウトですねん。
 でも、まこと厳として、両腕なく臍の下は衣に包まれている「ミロのヴィーナス」像はある。画家という分業を素人によって居直り、遥かに越えたと映るアンリ・ルソーの稚拙にしてロマンに満ちた絵がある。装飾性の極へといく尾形光琳の『紅白梅図屏風』は、毎年二月に、所有する宗教の組織は、うーん、だけど見に行く。北斎の、ついに辿り着いたたった二作であろう中の一つ、通称『赤富士』にも吐息をつくほかはない。描く対象への畏怖ゆえか。
 で、気づいたら、みな、生の伸びゆく讃歌の作品である。ではない、のを、一つ年上のかみさんが先々週突きつけた。枯れた向日葵が冷酷なほどに横たわり、でも、なんなんだ、これ、観る者が自らにリアルに引き寄せて命を納得できるようなリトグラフ『還らぬ夏』、たぶん苦しみ耐えてやがて尽きるであろう女の哀しさへの容赦のない描写と、それゆえ逆に今の今の女の華を炙り出す『花を売るインディオの老婆』のパステル絵とあり、ぎくり。老い、滅び、死へと真向かい、「それだけなの?」と観る者へ必死に問いかけてくるのだ。
 五木玲子さんという人の画集『天の花 地の花』(柘植書房新社、3800円+税)だった。日本的な美にこだわろうとすれば『夜桜Ⅱ』という、琳派の酒井抱一とじゃれあうような凄味のあるのも描いている。この人は、美大と無縁、早大文学部出身、そこから別の大学の医学部に入り直し、精神科医だったとのこと。
 美の世界は不思議、渦巻いておるぜよ。
(作家・歌人)







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