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評者◆石塚洋介
上海雑感その5――日中、現代の文化へのまなざしの違い
No.3038 ・ 2011年11月19日
中国人は日本文化をどう見ているのだろうか。難解だが、中国にいる日本人としては折りに触れて考えさせられる問題だ。今回はその思考の軌跡を記しておきたい。
このあいだ、上海にある大学の学部生と交流したときのことだ。彼らが日本と聞いて何を思い浮かべるのか探ってみると、答えはこうだ。まずはアニメ。「ほんとにドラえもんやちびまる子ちゃんのような家に住んでいるのか」という質問が出る。そして次はテレビドラマ。たしかに江口洋介が有名なおかげで、私の名前もすぐ覚えてもらえる。さらにはアダルトビデオ。「日本のAV業界はなんでそんなに発達しているのか」という経済論から道徳論まで、質問は尽きない。この3種の文化商品の影響力は極めて大きいようだ。中国人にかぎらず、上海で会った外国人、例えばベネズエラ、アメリカ、マレーシアから韓国まで、私が日本人と言うと、みなアニメの話題をふってくれる。だが往々にして話についていけず、逆にお前は日本人かと問われて辟易することもしばしばだ。ネットが普及した今、これらの文化媒体を通して日本を知ることは極めて容易だ。 さてでは、歌、映画、本などの他の媒体はどうだろうか。こちらもネットで簡単に情報が手に入る。今、中国で多くの若者に支持されている「豆瓣(douban)」というサイトがいい例だ。ここには、個別の作品の情報(歌手、監督、著者などなど)がまとまって載っており、さらにはユーザーが感想を残したり、評価したりできる機能も備わっている。例えば、日本の歌手「ケミストリー」と検索すれば、過去に出したアルバムがずらっと出てきて、それぞれユーザーが何点何点と評価しているのが見え、さらにはファングループのページまで出てくる。日本の文化商品を、中国の若者は絶えず消費している。彼らの文化に対する欲求というものは計り知れない。壁が高ければ高いほど、好奇心がある人は越えたくなるということだろうか。 さらに日本の芸術や文学を知りたい、という若者には雑誌も出ている。「知日」という雑誌が遼寧教育出版社から出版されており、8月号は美術館特集だった。根津やセゾン現代美術館などの「旧」美術館の歴史から、金沢21世紀、孤島美術館など「新」美術館の紹介、そして瀬戸内と越後妻有美術祭の分析まで、インタビューを含め読み応えのある記事が続く。写真評論家顧錚氏による東京都写真美術館への寄稿では、日中間での「美術館」という言葉の概念の違いについても触れられ、新たな視点を提供している。他にも、写真家山県勉氏の作品「国士無双」の特集あり、「阪神沿線――村上春樹の心象風景」と題された文学特集あり、中国の「知日」派たちのコラムも多数掲載され、ボリューム満点の内容だ。単に中国人が日本のことを知るための雑誌という域を越え、日本人が読んでも「他者」の視点から日本を読むという意味で得られるものは少なくないように思う。 さてここで翻って考えてみるとどうだろう。日本人は中国の現代文化について知る術をもっているのだろうか。政治、ビジネス、学術界を問わず、日本にはたくさんの「知中派」がいる。だが、現代文化や芸術となると極めて情報が少ないというのが現状だ。東京にいて中国の現代文化が「すぐそこにある」という感じは、極めてゼロに等しい。中国の文化に対するイメージが未だに赤一色なのか、無関心の透明なのか、いずれにせよそうした認識は改められてしかるべきだ。この国の変化は速い。文化や芸術を語る場が増え、多様化し、それはとても単色では捉えきれないほどの多様性を呈している。アジアで新たに興る文化シーンに対して、もっと敏感であるべき時にきているのではないか。 (現代中国写真研究) |
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