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評者◆鴻農映二
黒の深みと妖しさ――柳時浩の革新的水墨画
No.3037 ・ 2011年11月12日




 韓国の美術市場は、カネにいとめをつけず常時、購入するコレクターが200名、一度でも購入した人間の数は、20万名だという。
 これに比べ、お隣り中国は、500万円程度の絵を買ってゆく人間が、7000万名、いるという。本当かな? と疑問を述べると、北京で6年過ごした者が、「本当に、一般に値打ちある絵を買い集める風潮があります」と答えた。
 そんな北京で大学院の博士課程に所属する柳時浩が、一時帰国して、仁寺洞で個展を催した。
 「えーっ! なに、これっ、真黒じゃんっ!」
 水墨画だから、黒と白、二色なのだが、丘や山の部分が、夜の風景のように黒で塗りつぶされ、白い部分は、細い道、川、山里の人家程度だ。何故、こんな絵が生まれたのか?……。
 「中国での授業は、歴代の水墨画を模写させます。それをやっていると、その間の蓄積がよくわかります。風景、静物、人物画、対象を据えて描くのを、みな写生と呼びます」
 「黒の世界の中の、細い白線は私の人生を表わします。これ迄、そういう狭さの中を生きてき、将来もそうだろう、ということです」
 「三度くらい重ね塗りする技法が、積墨です。私は、五度、重ね塗りして、紙の下部にも届けと、念じます。自分では、沈墨と呼んでいます」
 「自分の内の至らなさや、恥ずかしさ、粗悪なものらを取り鎮めようとしているうち、私の絵は、いつのまにか墨の海になっていました」
 じっと見つめていると、濃淡がいろんなバリエーションとなって展開し、色彩あざやかに感じられてくる。画面の殆どが黒で覆いつくされているのに、一瞬、感じた不気味さが、徐々に、山中のねぐらに落ち着いた安心感に変化してくる。同じ黒でも、ゴヤの硝煙の匂いとは異なる。これら極端な絵に、これ迄、水墨画に感じてきたストレス(伝統の域内に留まって出てこない)が解消した。突然変異のような、しかし、21世紀の水墨画を切り拓いた作品群だ。
(韓国文学)







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