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評者◆秋竜山
屋根そのものが白黒、の巻
No.3036 ・ 2011年11月05日




 姜尚中『あなたは誰? 私はここにいる』(集英社新書、本体七四〇円)を、パラパラやっていたら、与謝蕪村《夜色楼台図》が眼に飛び込んできた。
 〈蕪村と言えば、画家よりも、俳人としてのイメージが強いかもしれませんが、わたしはむしろ俳画も含めて絵のほうに惹かれたのです。〉〈蕪村が描いた風景の中でわたしが最も愛するのは、《夜色楼台図》です。彼が晩年、ついの住み処とした京都の冬の景で、東山とおぼしき峰に抱かれるようにして、こんもりと雪に覆われた家並みが静まっています。着色こそされていませんが、家々の灯火が蛍のように黄色く点っているように感じられ、底冷えする景色ながら、じつにほのぼのとしたぬくもりがあります。蕪村ならではの味わいが画面いっぱいに充溢した作品です。〉(本書より)
 蕪村好きなら、この、《夜色楼台図》を一番にあげるだろう。蕪村を知らなくても、この作品をどこかで見ているだろう。簡単そうな絵である。「これだったら、私でも描けそうだ」なんて、思われても文句はないような絵である。なんて、寝ぼけたことをいうと、笑われるだろう。ちょっと絵心のある人だったら、思うはずもない。恐れおーくも!! で、ある。簡単に描けそうな絵ほど描けないものである。グーゼンにも、本書を読んでいる間に、ある一本のDVDを観た。〈祇園囃子、81分/モノクロ〉である。日本映画の永遠の名作だろう。過去に何回も観ている。監督・溝口健二、主演・木暮実千代、若尾文子。若い頃の木暮実千代の美しいこと。どーも私は年齢からいって年増の木暮実千代しか観ることができなかったから、ザンネンでした!! と、若い木暮実千代を知るものにいわれても、ザンネンがってもしかたないのである。若尾文子の舞妓姿に「アア……、若い時の若尾文子だ!!」と、しみじみとなる。……なんてことはどーでもよいことであって(どーでもよくないけど)、その、祇園囃子のタイトルバックに流れる京都の風景。それも屋根づたいが映し出されている。まさに、蕪村の夜色楼台図である。祇園囃子の京都風景は雪こそふっていないが、夜色楼台図とまったく同じ絵がらである。この映画は一九五三年の作品であるから、ビル一つない。江戸時代の京都を撮影したのと同じだ。溝口監督は、それを意識しながら撮ったのだろう。この映画はこのタイトルバックの京都を観ただけで、大満足してしまう。もう終わっても文句はいえないだろう。絵ではなく写真であること。
 〈わたしは真っ白に浄化された世界の中に人びとの暮らしが静かにいとなまれているこの景色を、一種の理想郷――あるいは「浄土」のように眺めました。蕪村もそのように思いながら、この景色を高みから見下ろしたに違いありません。〉(本書より)
 映画祇園囃子は白黒映画であったから、昔のというか、古い京都を見るような気分になってくる。もう二度と見ることのできない京都の屋根風景である。白黒映画の屋根風景というより、当時の屋根そのものが白黒であるということ。この夜色楼台図に白い雪がふりつもっていなかったら、蕪村はどのような絵にしたか。それとも、描く気などおこらなかったか。







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