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評者◆石塚洋介
上海雑感その4――中国写真界の「今」を垣間みる
No.3036 ・ 2011年11月05日




 9月16日夜、人でごった返す構内をすり抜け上海駅を発った。夜行列車はわくわくする。暗闇の中を静かな音をたてて列車が進み続けるあの感覚と、朝目を覚ましたとき異郷の光景が新鮮に目に飛び込んでくる感覚が忘れられない。終着駅は山西省の中心太原。列車は上海からひたすら北へと走りつづけた後、最後少し西へと方向を変え、13時間に及ぶ旅路を終えた。朝の太原は別世界だった。9月だというのに身震いするくらいの寒さが我々を待ち構えていた。駅についてからそそくさと長袖に着替えをすませバスに乗り込み、今回の目的地、平遙へと向かった。
 平遙は明清時代から続く古都で、優に3階立てのビルを超える城壁が街を囲っている。城壁の上は歩くことができ、1時間半もあれば一周できるほどの小さな街だ。街の中には目抜き通りが何本かあるほか、細い小道が建物と建物に張り巡らされている。世界遺産に登録されていることもあり、過度の観光化への兆しも否めないが、一歩路地に入れば、柔らかな日差しの中ゆったりと散歩することができる。石畳の道、がっしりとした城壁、木枠の窓。北方の古都は荒々しいが、歴史を直に伝える。
 さて、今回なぜそこを訪れたかといえば、1週間にも及ぶ中国最大の写真祭「平遙撮影節」に参加するためだ。古都の中に3つの大きな会場が設けられ、各会場にさらに小さなブースを設置して写真を展示するという形であった。土倉という元倉庫を改造した会場は学校枠に指定されており、大学生が作品を発表する機会になっていた。上海からの2校をはじめ、国内だけで約50校がひしめき合い、その他写真専攻で有名な米国シカゴコロンビア大学や、オーストラリア、シンガポールなど海外の学校も作品を展示していた。
 メイン会場である柴油機場は、昔国営企業の工場として使われていた建物そのものを利用している。当時のスローガンや掲示板などが手つかずで残されており、時の急激な変化を感じさせる。門を入ってまっすぐ歩くと、道の両側に工場の建物が10以上並び、中には優に100を超える写真家の作品が展示されていた。またこの写真祭の期間中、シンポジウムや講演会などのイベントも多数開催され、文化大革命期の写真集「紅色新聞兵」で国際的に有名な写真家李振盛氏の講演会では、歴史と国家、メディアの関係を巡って白熱した議論が夜遅くまで続いた。
 大会場の他にもいくつか小会場があり、正直言ってどれを見たか分からなくなるくらい雑多、というのが正直な感想である。作品のレベルも、題材も千差万別。中国らしいと思うのは、この写真祭が展覧会的な機能以外に、この業界にいる人が集まる交流の舞台として機能していることだ。中国では日本以上に人と人とのつながりがものを言う。そうした交流のための開放的なプラットフォームがあること自体は有意義だ。芸術の創作は往々にして孤独な作業だが、外からの刺激も同様に必要である。肝心の写真祭の中身については、また機会を改めて記すことにしよう。
(現代中国写真研究)







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