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評者◆鴻農映二
進化したパッチワーク――鄭英子の”夢と幻想の針旅行”展
No.3034 ・ 2011年10月15日




 疲れたとき、ひとには暗闇が必要だ。そして迷路のような路地が――。
(柳美里の言葉)

 別に疲れているわけではないけれど、やや迷路っぽい裏道を通り、朝鮮日報美術館に辿りついた。鄭英子のパッチワーク展を観るためだ。作品は、90点、展示されていた。
 著名な女流文芸評論家と同姓同名の彼女は、美術の名門校、弘盆大学工芸学科を出、ずっと西洋画の作家として活躍していた。それが娘の結婚祝いに、刺繍を施した風呂敷を作る。海外生活の合間々々に作り続け、何点か貯まった。食事に招いたイタリア人や、何とか人が帰ろうとしない。これ、欲しい、くれなきゃ帰らないというのだ。君は、断然、これ専門でやってゆくべきだよ! そうアドバイスされた。そして、精力的に作品をつくり、個展を開いたら、全部、売れた!
 きのうは、布地に詳しい日本人が来て、ほめて帰ったという。私も観ていて、何ともいえない安らぎを感じた。「人を嬉しがらせるのが芸術よ」、そう語る。韓国伝統の風呂敷の図柄は、本来、基本が五色から成るアブストラクトだ。しかし、鄭英子の作品は、婚礼や土産品の色づかいで食傷した、あのマンネリ感とは別物だ。モダニティーが、支配している。
 まさに芸術、まさに作品、まさにサムシングを感じる。わかりやすい英語での説明が、韓国語での説明よりも、ひときわ洗練された印象を与える。三角、四角、いろんな大きさの布をつなぎ合わせる作業。その色づかいの調和の妙。優しさ、暖かさ、情感――。都会という砂漠の中で心のオアシスに出会ったよう。パリやシンガポールの他、東京、京都でも展示会を開いている。
 もっちりした体格の、福多き顔をした、色白の美人だ。そばにいると、心がなごんだ。
(韓国文学)







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