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評者◆秋竜山
ゆかいなことをまじめに、の巻
No.3032 ・ 2011年10月01日




 高橋敏夫『井上ひさし 希望としての笑い――むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく……』(角川SSC新書、本体七八〇円)は、〈追悼、深くて愉快でまじめな傑作を生みつづけた偉才の足跡をたどった、決定版。井上ひさし論!〉(オビ)で、ある。丸ぶちのメガネに三角の太い眉、の井上ひさしさんの写真付きで、ある。
 〈井上ひさしは笑わない。くちもとはまことになごやかで、表情全体はじつにやわらかいのに、笑っているように見えない――それが井上ひさしの第一印象だった。〉(あとがき)
 写真の表情もきっとそうであろう。むずかしい。この顔はいったい何を言いあらわしているのか? なんて、写真をみながら考えるということは。ちなみに、本書のタイトルのサブは〈むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく……〉である。そして、〈「ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに」えがく著作がつぎつぎに刊行された。〉やっぱり、こーあらねばならないというのが、〈ゆかいなことをまじめに〉だろう。井上ひさしのまじめは、井上笑いに通ずるのである。井上ひさしのイメージとして、まじめの中から生まれた笑いである。だから、薄っぺらな笑いではないということだ。本書の〈戯作、笑うならとことん、命がけで「手鎖心中」「戯作者銘々伝」「京伝店の烟草入れ」〉の項目では、〈「井上ひさし誕生」にとって決定的な事件だったのである。〉が、のっている。
 〈はじめて江戸の戯作、黄表紙と出会ったときのおどろきと感動を記している。大学にはいったものの、東北弁と大学の授業(ドイツ語)とにへとへとになった井上ひさしは、母のいる岩手県釜石市に帰った。たまたまみつけたアルバイトで、黄表紙に出会うやたちまち、苛酷な状態を意表をつく趣向と言語遊戯で爆発のうちにのりこえる、驚天動地の物語につよく魅せられた。「言葉に縛られて万事内向きになっている自分とは、なんてケチでアホでつまらない存在なのだろう。ここに言葉を自在に使いこなして笑いを爆発させた人たちがいるではないか。言葉に縛られていてはだめだ。この人たちに倣おう」。〉(本書より)
 このときから、
 〈言葉を使いこなす物書きへの第一歩を踏み出していたのではないかとおもいます。〉(本書より)
 もし、井上ひさしが江戸の戯作者仲間と一緒にいたらどーだったんだろうなァ!! と、想像するだけで楽しい。「手鎖心中」を、江戸の人達に読ませたかった、なんて思ってしまう。
 〈そもそも「手鎖心中」のネタは山東京伝の「江戸生艶気樺焼」であった(ドナルド・キーンとの対談「戯作の精神」一九七四)〉(本書より)
 これに続く文章が実にいいんだなァ!!
 〈人は自分の才能と、自分が生きる時代を選べない。しかし、その才能を精いっぱい、全開にできるかどうか、生きる時代をまるごとひきうけそこから一歩踏みだせるか否かは、その人の努力と意志にかかっている。〉(本書より)
 自分に問いかけてみる。「いい時代に生まれたかどーか?」答えは、軽く、「いいと思うよ」。それしかいえないだろう。この時代だから自分も生きていけるが、他の時代だったら、怖くて生きてはいけないだろう。もしかすると、自分でこの時代を選んだのかもしれない。







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