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評者◆秋竜山
面白くて勉強になった一冊、の巻
No.3030 ・ 2011年09月17日




 「面白かった!!」と、思うと、もう一人の自分が、「面白かった、ではない。勉強になりましたと、思いなおしなさい!!」と、いった。川畠成道『耳を澄ませば世界は広がる』(集英社新書、本体七二〇円)。ハテ、面白かった。と、勉強になった。と、どっちが、上であるかというと。ハテ、どっちが下なんだろうか。わからなくなってしまった。本書では〈「もうひとりの自分」は必要〉という項目がある。
 〈ステージで演奏している姿は、もう夢中になって弾いているように見えるかもしれません。けれども、ステージに立つ以上は、夢中になっている自分を客観的に見ている自分が必要です。〉(本書より)
 自分を客観的に見ている自分が必要です。と、あるが。そんな、よき自分が、みごとにあらわれてくれるか、どーかが問題である。
 〈ステージの上だけでなく、普段も自分のことを離れて見る癖がついています。〉(本書より)
 著者は、一九九八年のデビュー以来クラシック界の第一線で活躍してきた天才ヴァイオリニストである。この天才ヴァイオリニストが舞台上で演奏している。もう一人の自分もいる。それを客席でウットリと聞きいっている私。私にも、もう一人の自分がいるってのはどーかしら。そして、舞台にいる、もう一人の自分を、観客の私の自分が見つめている。二重のたのしみかたかもしれない(やだ。この程度の空想しかできないのだから)。
 〈自分の演奏を好きと言ってくれる人もいれば、嫌いだと言われることもあります。それが当たり前で、逆に全員に好きと言われるのは不自然でしょう。好き嫌いはあるにせよ、音楽というものは、どちらが正しくてどちらが間違っているというものではないと思います。正解というものがないのです。だからこそ難しい。答えがない中で自分で決めて、自分で答えを出していかないといけません。結局、最終的には、自分が納得する演奏というのは、自分の演奏ができているかということに尽きると私は思っています。〉(本書より)
 「面白い……いや、勉強になる。勉強になって面白いというべきか」。
 〈人間が自分の声を聞く時にはだいたい骨を通して伝わってくるそうですが、ヴァイオリンも同じです。f字孔という、ヴァイオリン本体のfの形をした隙間から音が出てきて、そこから聞く音、つまり一度空気を通して耳に入ってくる音以外に、演奏家は楽器の振動が骨を通して伝わってくる音も聞いています。ですから,自分が弾いている時の方がよく聞こえることが多いのです。〉(本書より)
 「骨を通して、というけれど、いったいどこの骨を通して伝わってくる音なんだろうか。」と、私。「そんなこと、考えるものではなく、骨でいいのだ」と、もう一人の私がいう。
 〈演奏するということは、聴衆に聞いてもらうということですから、自分の感覚だけでは不十分なところもあります。演奏する側、聞く側、両方の立場で聞くということが大切です。〉(本書より)
 面白くかつ勉強になったのは、
 〈だいたい一番いいテイクは最初の演奏ということが多いのです。(略)素直に自然な気持ちで最初に弾いたものが一番よかったりするものです。〉(本書より)
 一番最初のものと一番最後のもののCDがでたら、そりゃァたのしいだろうなァ。







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