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評者◆内田雅敏
歴史に向き合わず、最高裁判例にしがみつく判決――加害者が被害者に「寛容」を説く判決はアジア諸国に通用しない
No.3029 ・ 2011年09月10日




1 原告らの夫や父は日本国家と靖國神社に殺された
 2011年7月21日、東京地裁民事第14部高橋譲裁判長は、韓国人遺族らが靖國神社が同神社に彼らの夫や父を彼ら遺族に断りなく、合祀していることにつき、合祀の取り下げ、勝手に合祀したことに対する謝罪広告の掲載等を求めていた裁判につき、原告らの請求をすべて棄却した。
 判決は、交通事故死したクリスチャンの夫の山口県護国神社への合祀に対し、同じくクリスチャンの妻がその取り下げを求めた裁判で、最高裁が護国神社への合祀は妻がクリスチャンとして夫を追悼し、祀る権利を何ら妨げるものではなく、したがって護国神社の行為は違法なものではない――他者の宗教的行為に寛容になりなさい――と、いわゆる「寛容論」によって妻の訴えを棄却した1988(昭和63)年最高裁判決を本件にそのまま引用し、被告靖國神社の行為には何ら違法な点はなく、合祀の取り下げ請求等は認められないとした。
 判決は云う。「韓国国籍を有する原告らが、植民地時代に日本国に徴兵、徴用されて第二次世界大戦の戦場に赴き、死亡した者の遺族であることを踏まえると、被告靖國神社による本件合祀行為等に対して強い拒絶の意思を示していること自体については原告らの歴史認識等を前提にすれば理解し得ないわけではない。しかしながら、原告らの主張する利益は、他人が家族を自己の意思に反する宗教的方法で慰霊すること、または英霊ないし祭神として祀ることを拒否するというものであると解され、その内容は、結局のところ、他者の宗教的行為により自己の感情を害されることを拒否するというものである。そうであるとすると、上記利益は、原告らが被告靖國神社の教義や宗教的行為に対して内心的な不快感や嫌悪感を抱くことのない利益を言い換えたものに過ぎず、最高裁昭和63年判決の判断の対象となった宗教上の人格権又は利益と本質的に異なるところはないというべきである。」
 しかし、この引用はあまりにも安易であり、本件の問題点がどこにあるかを見ないものである。
 最高裁昭和63年判決の事例では、原告の夫の死と山口県護国神社との間に因果関係はない。ところが、本件の場合、原告らの夫や父の死と被告靖國神社との間には因果関係がある。この点が決定的に違う。しかも前者では遺族の全てが護国神社への合祀に反対していたわけでなく、原告となった妻以外の親族の中にはむしろ合祀を望んでいた者もいた。
 戦前、靖國神社は日本軍国主義と一体となって、日本国民だけでなく、植民地下にあった朝鮮半島、台湾の人々をも戦地に駆りたて、その命を失わせた。すなわち、原告らの夫や父は日本国家と一体となった靖國神社によって殺されたのである。この死との因果関係の有無、これが本件の核心である。何故「原告らが……被告靖國神社による本件合祀行為等に対して強い拒絶の意思を示す」のか、ということこそが解明されなければならない。前記最高裁63年判決、山口県護国神社の事例は他者の「宗教的行為」が遺族の宗教的行為の妨げになるか否かという点で「信教の自由」の問題と解する事ができるかも知れない。しかし、本件韓国人原告らの事例は「信教の自由」の問題でなく、まさに加害者としての靖國問題なのである。前記最高裁63年判決の言う「寛容論」はここでは通用しない。かつて、近隣アジア諸国からの批判を無視し、靖國神社に参拝して、「外国の干渉に屈しない強い指導者」を演出し、求心力を高めようとして近隣アジア諸国との関係をガタガタにしてしまったバカな首相(小泉純一郎首相)がいた。A級戦犯を「護国の英霊」として合祀している靖國神社に参拝したことを批判された彼は「罪を憎んで人を憎まず。これは中国の孔子の言ったことだ」と嘯き、それは被害者が加害者に言うことであって、加害者が被害者に言うことではない、と失笑を買った。最高裁昭和63年判決を引用して、被害者たる原告らに「寛容論」を説く本判決は前記首相と同じ思考に立つものである。
――つづく
(靖國合祀取消訴訟弁護団/ヤスクニ・キャンドル行動日本事務局長)







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