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評者◆秋竜山
あれも哲学、これも哲学、の巻
No.3028 ・ 2011年09月03日




 今年の夏。生きるためには何が必要か。只一つ。氷であった。猛暑を超えた暑さ。身体を冷やす以外に方法がない。氷のかたまりこそ生きるすべて。あの冷たさであった。なんて、思いつつ、店で氷のかたまりを買い、とけない内にと猛烈な暑さの中を家へ急いだ。とけてしまったら、何の意味もない。かき氷こそ、命を……。なんて、ね。グーゼンなり。〈私にとってのニーチェは、教養のために学ぶものではなく、まさに生きるためのものでした。白取春彦。60万部突破「超訳ニーチェの言葉」の編訳者が語る〉と、いう本のオビ。白取春彦『生きるための哲学――ニーチェ「超」入門』(ディスカヴァー21、本体一三〇〇円)。私は本書を左手に、かき氷のスプーンを右手に。このオビの文章をみながら、「ヘエエ……」と、声を出した。白取さんは、生きるためのものでした、と、ニーチェをあげている。私は、どーかというと、今、生きるためにと、かき氷を口にしている。私には〈生きるための氷であったのだ。〉イチゴのシロップ入りのかき氷。氷と哲学、この違いはいったいなんだろうか。もちろん、生きるための意味が違うかもしれない。
 〈これは、ニーチェという哲学者の考え方がどんなものだったかを伝える本だ。けれども、ニーチェの入門書ではない。別にニーチェや哲学に入門したくない人にでも読めるように書いたからだ。(略)この本はちっとも難解ではないし、重たくも暗くもない。フリードリッヒ・ニーチェという十九世紀のヨーロッパに生きた一人物が何をどう考えたのかということを中心に、なるべくあっさりと書いている。〉(はじめに)
 なるべくあっさりと書いている。という。これは大変な作業である。何を、どのように、あっさりと書いてあるかが問題だ。それに、まず〈哲学〉という言葉には、その言葉を口にしただけで、なにか今、自分はすごいことを口走ったようだという感情にとらわれるものである。だから、なにかにつけて「哲学的だ」と叫んでは気をよくするものだ。ニーチェといえば「神は死んだ」で有名だ。
 〈それが最初に記されたのは、「悦ばしき知識」の一二五番目の断章だ。「神は死んだのだ!神はもう死んでしまって動かないのだ!しかもわれわれが神を殺してしまったのだ!あらゆる殺害中の殺害者であるわれわれは、どうやって自分を慰め元気を取り戻したらいいのか。これまで世界が所有した中で最も神聖で最も強力であるもの、それが、われわれの刀で切られ出血して斃れてしまったのだ」ここでは、狂人が興奮しながら市場に駈けてきて神の死についてふれ廻る、という設定になっている。〉(本書より)
 本書で面白いと思ったのは、〈遠近法こそ、人間の認識方法だ〉であった。
 〈ふつうは、遠近法は絵を描くときの基礎的な手法の一つとして理解されている。つまり現実の距離感をキャンバスの平面に再現するために遠くの物は小さく近くのものは大きく配置する手法のことだ。これを透視画法とか遠近法という。〉(本書より)
 人間の考え方や見方にあるとニーチェはいう。自分に重要なものは手前に、関係ないものは遠くの方へとおざけてしまう。好きな人は近くへいらしゃい。キライな人は遠くへ。これも哲学か。







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