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評者◆小嵐九八郎
楽しんでしまう波瀾万丈人生論――宇梶静江著『すべてを明日の糧として』(清流出版、本体一七〇〇円)
No.3026 ・ 2011年08月13日




 四十ウン歳までは、一応、唯物論が正しいと思っていたが、この論は深さがなくて、いわんや六十代半ばになるとそろそろ冥途か天国か地獄か無の世界への準備が必要、あれこれ惑っている。
 ユダヤ教、あるいはイスラム教の唯一神は信じられたら凄いとは考えるけれど唯物論と似た怖さもあり、さりとてイエスの生死に泣くしかないとしてもキリスト教の三位一体論はこじつけ臭く、仏教の仏の懐の広さは魅力的だがあの世のイメージがどうも解らず、とどのつまり荘子の「死生一条」「土塊にも魂」あたりにこだわろうかなと迷っている。
 それで本屋である本をぺらぺら捲ったら、「『川の神様ありがとう』『海の神様ありがとう』『橋の神様ありがとう』『土の神様ありがとう』『空の神様ありがとう』……。(中略)そう、アイヌは万物に宿る神々と共に大地に生き抜いてきた民族です」という文が目ん玉に飛び込んできた。
 本のタイトルは『すべてを明日の糧として――今こそ、アイヌの知恵と勇気を』(清流出版、定価1700円+税)でエッセイ集、著者は詩人・古布絵作家・絵本作家・アイヌの解放運動家で近頃吉川英冶文化賞を受賞した宇梶静江さん。
 古布絵とは、アイヌ刺繍と古布を組み合わせたもので「文字を持たない民族といわれてきた」民族の魂が入っていて、現在七十八歳の宇梶静江さんは六十三歳にしてアイヌ刺繍の基本を学び、古布と組み合わせるジャンルを作り出し、この本の帯にはカラーで、本文にはモノクロの写真で載っている。
 詩人でもあるのでのびやかに気分を新しくしてくれる詩もあるが、なにせ、生き方の軌跡の必死なこと、いろんな苦しみを糧としてしまう迫力、自らを愛することと同胞や他者を愛することの熱さに満ち満ちている。といって、疲れるエッセイではない。楽しんでしまう波瀾万丈人生論である。六十代半ばなどガキンチョと安心してしまう一冊なのだア。
(作家・歌人)







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