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評者◆伊達政保
あの時代の、「これが連帯だったんだ」――川本三郎原作/山下敦弘監督『マイ・バック・ページ』
No.3025 ・ 2011年08月06日




 オイラにとって昭和40年代後半、「マイ・バック・ページ」といえばボブ・ディランの歌ではなく、キース・ジャレット・トリオによるジャズ演奏であった。今でも耳に残っている。
 昭和46年、成田第一次強制代執行、沖縄返還協定阻止闘争、本格的野外ロック・フェスティバル箱根アフロディーテ、三里塚幻野祭、成田第二次強制代執行(機動隊員死亡)、日比谷暴動、クリスマス・ツリー爆弾という時代だった。その年の8月、陸上自衛隊朝霞駐屯地で自衛官が刺殺され、いわゆる「赤衛軍事件」が起こった。動機も目的も不透明な「いやな感じ」の事件だった。その関わりで、翌年「朝日ジャーナル」記者川本三郎氏が逮捕され、京大助手の滝田修が全国指名手配となった。
 1988年、川本三郎著『マイ・バック・ページ――ある60年代の物語』が出版された。氏の評論を好んで読んできた者にとって「いやな感じ」のする本だった。あの時代の自分に対する自己憐憫、自己弁護、自己美化に終始しているように思えたのだ。今読み直すと文学的表現を隠れ蓑にした自己韜晦にも見える。いかに言葉を紡ぎあわせようと、そこにはジャーナリスト、ジャーナリズムを建て前として、「過激派」のスクープを取ろうという、言葉は悪いがスケベ根性が根底には有ったと思えるのだ。
 今回、『マイ・バック・ページ』として山下敦弘監督、川本氏役に妻夫木聡、「赤衛軍」首謀者菊井役に松山ケンイチで映画化された。原作のエピソードを手際良くまとめ上げながら、川本氏の菊井に対する、音楽や文学を媒介とした同世代的シンパシーを軸に、展開されている。ただ原作にないエピソードを最後に付け加えることで、エクスキューズしているように思えた。妻夫木は良くも悪しくも川本氏そのままであり、自己顕示欲が強く実体の無い妄想を現実として自己同一化していく主人公を松山ケンイチは好演している。昭和40年代を全く知らない世代だからこそ、映画化できたのかもしれない。運動の実態については表現出来ないにしても、小道具の一つ一つは細部にまでこだわることが出来るからだ。
 川本氏も「赤衛軍」も運動というものを知らず、自ら運動を作り出すことが出来なかった。川本氏が学生時代に運動に関わっていれば「赤衛軍」の虚像を見破っていただろう。『朝日ジャーナル』復刊2号の中森明夫との対談で川本氏は全共闘運動のことがよく分からないとしながら、この映画が作られていく過程を見ていて「これが連帯だったんだ」と思ったと言っている。そう考えるならば、現在の反原発運動が作られていく過程、それが全共闘だという事が分かるだろう。
(評論家)







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