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評者◆別役実
品川 (下)
No.3023 ・ 2011年07月23日




 (承前)もちろんその区に近いところにあれば、その区の名をつけた駅が、その区の中になくたってかまわない。その意味で私は、目黒駅が品川区にあることについて、何の問題も感じなかったのであるが、「品川駅が港区にある」については、ちょっとした違和感を覚えた。どうしてかわからない、「えっ、それはまずいんじゃないか」と思ってしまったのである。
 私に「目黒駅は品川区にあるんだよ」と言ってくれた者は、そういうことで私に、つまり目黒区に住み、目黒駅を利用している私に、いささかの「ひけめ」を感じさせようとしたに違いない。ただ私は、そうしたことに鈍感なせいか、事実を事実として知っただけで、ことさら「残念だ」とも思わなかったのであるが、品川の場合は、ちょっと違うのではあるまいか、と思うのである。
 品川区に住み、品川駅を利用している知人を、生憎私は知らないが、もしそうした人が「品川駅は港区にあるんだよ」と言われたら、ほとんど裏切られたような気分になるに違いない。地名として、品川の方が目黒より有名だから、というだけのことではない。目黒だって、「目黒のさんま」の落語で、充分人々に知られている。
 恐らく、品川というのは目黒と違って単なる地名ではなく、「これより東海道」という、志ん生師の言う棒杭のような、シンボルだからではないだろうか。そうだとしたらそれは、やはり品川という土地の上になくてはならない。
 もちろん、こうした奇妙なことは、埋立てによる駅の移動によって生じたことであるそうで、今更どうしようもないと言ってしまえばそれまでだが、出来れば港区と話し合って、その駅のある部分だけ品川区にしてもらうことを、現在の品川駅をメリハリある品川駅とするためにも、私はお勧めする。その代りに、目黒駅のあるところを港区にしたって、ちっともかまわない。
 ところで、前述したように品川駅は大きく改造されて変わり、かつて我々が「坐りこみ」をした当時のおもかげなど、どこにもない。特に、「駅ナカ施設」と言うらしいのだが、改札を出ないまま、レストランで食事をしたり、本や衣料品の買物をしたりできるということが、自慢らしい。つまり、我々が「坐りこみ」をした当時、「誰もいない改札口」を自由に通り抜けてやったことを、改札を出ずに出来るようになった、ということである。
 このことによって乗降客が、「便利になった」と感じ取るか、逆に「閉塞感を感じるようになった」かは、判断の限りではないものの、私自身は個人的に、ちょっと言いたいことがある。
 新幹線で関西から帰ってきた時、前述したように私は品川で降りるのだが、新幹線の改札を出て在来線のホームへ行く途中、食事をしたくて「駅ナカ施設」へ行く場合、一度改札口を出て、在来線の改札口に入り直さなければいけなくなるのである。もちろん、在来線のホームに一度下り、別な階段を上れば、改札をくぐり直さなくてもそこに出るが、言うまでもなく面倒くさい。
 新幹線の乗車券は都内全域となっており、私の場合は山手線でそのまま渋谷まで行けるところ、品川で食事をすると、そこで切れてしまうのだ。何とかならないものだろうか……。
(劇作家)







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