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評者◆小嵐九八郎
新鮮な骨太の視座が生き続ける――本田靖春著『複眼で見よ』(河出書房新社、本体一九〇〇円)
No.3022 ・ 2011年07月16日
最高裁で、相次ぎ、『君が代』について教師が強制的に起立させられ、合唱させられるのは合憲という判決が出ている。俺は、自称歌人だけれど、感動もしない、しかも、主権在民となって久しい時にあまりに引っかかる歌を強いられて声に出すなど「おかしい」と思う。かつての短歌の師の歌には好きで凄いのがあっても、声に出すことはほとんどない。そもそも活字の飛翔の力を信頼していて黙読するし、朗唱せよなどといわれたら拒む。いわんや、起立してなんて、考えられない。詩歌を愛する人間なら、ここはひどく解るはず。美空ひばりの『悲しき口笛』、『東京キッド』、『悲しい酒』は死ぬほど好きだけれど、公でも酒場でも、「さあ、皆さん、起立して、声を出して歌いなさい」となったらとんでもないのである。これは俺だけの思い、感性ではないはず。
大相撲の八百長の件も然り。義理・人情、助け合いで八百長は江戸時代からの文化なのであり、これを相撲協会が「有り得ない」と居直るからおかしくなり、事実を明確にした週刊誌の記事に最高裁が”誤まり”などと宣う。 『君が代』の件も「大相撲八百長」の件も、最高裁がらみである。そして、やっぱり、この判決がおかしいときっちり声を上げて糾すのが新聞、テレビ、週刊誌などのジャーナリズムの責務である。が、一部のM新聞、『週刊G』以外、していない。 そんなところへ、書店で、一冊の本をぺらっと捲ったら「『愛国心』を強要される日は、さほど遠くはあるまい」の一行が目に入った。初出は1992年、もう昔だ。本のタイトルは『複眼で見よ』(河出書房新社、税別1900円)。著者は、6年半前に死んだ本田靖春氏。あの、読売新聞の記者時代に売血商売を克明に暴き、献血制へと導いたジャーナリスト、ノンフィクション作家である。売血の取材が元で、全身に”菌”が回り、多臓器不全で死ぬその時まで『我、拗ね者として生涯を閉ず』(講談社文庫)を記し、古い事がらなのにかえって新鮮な骨太の視座が生き続ける人である。未収録作品を含め復活させた若い編集者や、見ごと。 (作家・歌人) |
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