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評者◆秋竜山
人間はアリに見習え!、の巻
No.3019 ・ 2011年06月25日




 よくわからないことに、一匹のアリがウロウロしていることだ。どこにも仲間のアリの気配がない。その、アリは、いったいどこからやってきたのか。砂バクの真ン中で一人の人間がウロウロしている、ようなものだ。人間の場合は、その理由が考えられるが、アリとなると、理由などというものはなく、そして、そのアリに聞いてみることもできないということである。長谷川英祐『働かないアリに意義がある――社会性昆虫の最新知見に学ぶ、集団と個の快適な関係』(メディアファクトリー新書、本体七四〇円)では、この本のウリとして、やっぱり〈第1章 7割のアリは休んでいる〉と、いうことになるだろう。以前、何かの本で、これに似たことが書かれてあって、面白大発見的な感動をしたことがあった。働きアリの中に、働いていないアリがいるという事実は、考えられないことでもあり、考えられることでもある。働きアリということも、勝手に人間がいいだしたことである。
 〈アリの巣は地下にあり、地表でエサ探しをしているものの何十倍もの働きアリが巣の中にいます。ということは、私たちは普段「エサ探し」という仕事のために地上に出てきている働きアリだけを見ていることになります。〉〈生まれてから死ぬまでほとんど働かないアリもいる〉(本書より)
 そして、これはチューモクすべきことがのっていた。〈ずっと働かない働きアリは、なにも好んで働かないのではなく、働きたいけど鈍すぎて仕事にありつけない個体であると考えられるのです。〉そういうアリを現場で働いているアリたちはどのように思っているのか。「そーいうアリを、働きアリの我々がめんどうみてやらねばならない」と、思っているのか。それとも、「どーしょーもないヤツらだ。仲間から追い払ってしまいたいのだが……」とか。「働きたい気持ちがある」のだが、鈍さのため働けないというのなら、めんどうをみてやるべきではないか、と、もしかすると人間はアリに見習うべきではないか!! とさえ思えてくる。
 〈女王がワーカーに比べてとても長生きであることが知られています。確認されている例では、オオアリの一種で女王が20年以上生き続けたという記録があります。これは昆虫では最も長寿な例であり、働きアリの寿命は長くても3年くらいですので、女王がいかに長生きかがわかります。残念ながらワーカー個々の寿命の違いと労働の量を関連づけて調べた研究がなく、データはありません。しかし経験的な例から、働いてばかりいるワーカーは早く死んでしまうらしいことは推察されています。〉(本書より)
 〈ハチやアリにも「過労死」と呼べる現象があり〉と、いうわけだ。アリといえば働き者の代名詞のようでもある。それはイソップの「アリとキリギリス」で教育されたからである。この物語でかわいそうな思いをさせてしまったのがキリギリスであった。よく考えてみると、死がいとなったキリギリスを、エサとして穴の中へ運びこむのはアリである。本書でいうように「アリは本当に働き者なのか」だ。「アリのように働け!!」と、いう者と、「アリのように働かされる者」があるとしたら、「本当はアリは働き者ではなかったんだよ」と、いってやりたい。







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