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評者◆伊達政保
ここから原発人災は始まった――川村湊著『福島原発人災記――安全神話を騙った人々』(本体一六〇〇円、現代書館)
No.3018 ・ 2011年06月18日




 「福島原発震災から1ヵ月以上がすぎた。しかし、震災は、いまだ予断を許さない状況が続いている」。川村湊著『福島原発人災記  安全神話を騙った人々』(現代書館)は、重版に際してとして、4月17日付でこのように書いていたが、2ヵ月以上がすぎた現在でも、その状況は全く変わっていない。それどころか放射能汚染は益々拡大し、原発事故について当初の情報が明らかになりつつある。
 本書は東日本大震災発生の3月11日から25日までの15日間、原発震災報道の受け手からの貴重なドキュメントとなっている。著者はテレビを見続けながら、なぜこうなったのか、誰がこうした事態を引き起こしたのか、原発の危険性について問いかけ、インターネットと新聞情報による「にわか勉強」を思い立ち、インターネット情報を中心に本書を書き上げたのだ。
 オイラをも含む多くの人は、時間の許す限り同じようにテレビに齧り付き、地震や津波のライブ映像に驚愕し、インターネットのツイッターなどで情報を収集しながら、大震災発生後の数週間を過ごした筈だ。地震や津波の災害に目を奪われていた時、福島第一原発が危機的状況とのニュースが入り、震災の様相は一変してしまった。その一方、地震や停電により首都圏の交通機関はマヒ、大量の帰宅難民が発生していた。
 当初、原発から「避難の必要は無い」としていた政府は、避難指示を半径2キロ、3キロ、10キロと段階的に拡大。12日の午後には原子力安全・保安院の中村審議官が「炉心溶融(メルトダウン)が起きた可能性が高い」と発表した。ここに「原発安全神話」は完全に崩壊したのである。ところがここから原発人災は始まったと言えるのだ。
 「いったいどうなるかわたしにも分からない。解決策があるなら教えてほしいぐらい」(元原子力学会会長)と、はじめ茫然自失の体であった原発推進派である電力会社、官僚、政治家、学者達のいわゆる原子力ムラの巻き返しが始まった。(彼らの組織、論理は、本書でネットからのコピペにより明らかにされている)「安全神話」防衛の為、事故を小さく見せようとした対応は後手後手に回り、そうした結果、1号機、3号機、2号機が水素爆発を起こし、放射性物質を大量に飛散させてしまった。にもかかわらず、メルトダウンや死の灰、放射能雨に関してのツイッターなどによるインターネットの情報はデマであり、取り締まり削除せよとの通達まで行った。
 2ヵ月経ってようやくメルトダウンを認め、放射性物質の飛散状況も実際の被害によって明らかになりつつある。本書はそうした初期事態を検証する為にも、重要な意味を持っている。
(評論家)







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