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評者◆阿木津英
言葉のもつ衝迫の力――東日本大震災被災地の歌から
No.3015 ・ 2011年05月28日




 東日本大震災の津波のあとの風景を、どれくらい写真や画像で見たことだろう。無惨である。黒い津波が地の上を這いのぼる動画は恐ろしい。しかし、どういうわけか、体の芯から動かされない。われながらいぶかしむ思いをもっていた。

昔むがす、とんでもねえごどあつたづも 昔話となるときよ早よ来よ

 『歌壇』六月号緊急特集「震災のうた――被災地からの発信」より、仙台市在住佐藤通雅の3月18日の歌。
 佐藤の個人誌『路上』119号には、4月5日、やっとガソリンが平常になって閖上に行ったときの記事がある。「現場に立って私は打ちのめされ、慟哭をおさえきれなくなりました。慣れ親しんできた海浜の面影はすっかり消えて、倒壊した家屋、解体された材木・家具などなどが無雑作に散乱していたのです。(略)建材や車ですらめちゃくちゃですから、柔らかい人体はひとたまりもない。頭部のない遺体や手足だけというのもある。(略)目前に広がる終末的風景をどのように受け止めたらいいのか、私にはわからない。ただ手を合わせて立ち去るしかありませんでした」。
 写真でも画像でも動かなかった心が、この佐藤通雅の言葉には揺るがされた。ここには衝迫がこもっている。とうてい言葉には表せない、言って伝わるとも思えない、黙りこむしかないような膨れあがるような思いの総容量が、言葉の背後に確かに感じられる。それが想像力を刺激する。
 あの写真の背後には「慣れ親しんで来た海浜の面影」の喪失があった。言語だけが、その苦悩をわたしに伝えてきた。

跡形も無き町筋のまぼろしの間口を思ひ描かむとして    
梶原さい子

 『歌壇』六月号緊急特集より。「浜はもう……瓦礫ばかりでした。瓦礫、なんて呼びたくないけれど、それは瓦礫でした」。
 言わない、言えないものの総容量を背負いながら、なお突き破ってでも表出したい衝動が生み出す言葉、歌。そのような言葉、歌こそが、衝迫の力をもつ。なんでもかんでも歌に化してしまうのは頽廃だ。 
(歌人)







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