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評者◆小嵐九八郎
大きな危機の時の自分を検証――大江健三郎著『遅れてきた青年』(本体七八〇円・新潮文庫)
No.3014 ・ 2011年05月21日
4月22日、最高裁で、大江健三郎氏の『沖縄ノート』へ、それと版元の岩波書店への出版差し止めや、損害賠償の訴えが結着ついた。当方は、むろん、裁判所などまるで信用していないのは青春時代から実感的トラウマだけど、この件で「日本軍関与は公」となり、表現の自由がかなり認められたとちょっぴり安堵している。でも、これからですね。
一見、このことと無関係だが、福島県知事の4月23日の発言じゃないけれど「原発危機は進行中。これをなによりも重点的に」は、説得力がある。我らロートルのこの一ヶ月半の挨拶は「俺達は少しは我慢するが、若者、少年少女、幼児が」となっている。原因の究明、そもそもなんで原発に国家、官僚、原子炉メーカー、学者が浮かれたように熱心になってきたのか、核爆弾への野心があるのではないのかをぎりり見つめきろう。 それで、若い頃を苦く思う。「水爆反対、スイバク、ハンタイ」と叫んでデモをしたこともある60年安保で“死んだ”樺美智子さんだが、65年以後の闘いでは樺さんの属していたブントを引き継ぐ第二ブント、当方の属していた社青同解放派も、「反帝」にこだわり、革共同の「反帝反スタ」からくると思われる反核闘争に比して、ちいーっと熱情が不足していて“遅れていた”のである。 ここの“遅れていた”感覚について、もっと前の時代を含め、この大きな危機の時の自分を検証したくなり、大学浪人時代にはまるで触るのに困った大江健三郎氏の『遅れてきた青年』(新潮文庫、税込み800円――ただし、書店に注文しても入手できず、「アマゾン」経由。ああ、この名作が)を再び読んだ。 “遅れてきた”意味は「天皇の赤子としての少年の決起の遅れ」なのであるが、歴史の決定的転換点で庶民、役人、米軍、朝鮮人、そして消されいく特別の神話と男子は左腕の一部を切ってしまう部落伝統を持つ人人がどうしたか。一言、すんごいっ。大江健三郎氏がまだ二十六歳頃の作で、混沌の中のワクワク気分も味わえる。なにより、若者がこの小説を読み、主人公の挫折を超えて欲しい。 (作家・歌人) |
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