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評者◆秋竜山
ただただ書くこと、の巻
No.3011 ・ 2011年04月23日




 森博嗣『小説家という職業』(集英社新書、本体七〇〇円)を書店で眼にした時、そういえば!! と、私は思った。昔、「漫画の描き方」という本があったなァ!! と、想い出したのだった。昭和二十年代の後か昭和三十年代の初めの頃だった。手塚治虫が描いたのだから、決定版だった。今でも、これ以上のものは出ていないと思う。この本を読んで、漫画家になった人もいるだろう。私もワククワクしながら読んだものだった。本書の〈あとがき〉で著者が、〈僕は小学生のときに「漫画の描き方」という本を読んだ。〉と述べているが、もしかすると、手塚治虫の「漫画の描き方」ではないかと思われる(復刻版で出ているが、それかしら?)。うむ、そーだったのか!! と、納得した。〈それには、インクとペンを使うこと、ケント紙にまず所定のサイズの枠を引くこと、といった基本から始まって、デッサン、人物の表情、コマ割りの進め方、起承転結のプロットの組み立て方、そして出版社に投稿したり持ち込んだりして、編集者の意見を聞く、といったことに至るまで、本当に「ノウハウ」といえることが解説されていた。(略)この本を読んで、幾つか発見があったし(たとえば、スクリーントーンの存在など)、なによりも新鮮な夢を将来に対して予感した。漫画家になれそうな気がしたのだ。事実、何年かのちに、僕は漫画を描くようになっていた。〉そして、著者は漫画家にならず小説家になったのだった。
 〈「小説の書き方」という本には、僕はお目にかかったことがない。たぶん存在するとは思う。出会わなかったのは、僕に関心がなかったからだろう。でも、いったい何が書かれているのだろうか。漫画のように技術的なノウハウは小説にはほとんどない。あっても、小学校の国語で習うことばかりだ。「そうだったのか」と目から鱗が落ちるような技もきっとない。一度でも小説を読み、小説がどんなものかを知っていれば、おそらく大半の人に小説が書けるだろう。〉(あとがき)
 と、いうわけかどうかは知らないが著者は小説家になった。そして、著者は言う。〈小説家への道は、ただただ書くこと、それ以外にない。〉何をどう書くか!! なんてものではない。ひたすら書くことだと、いうことか。そういえば、漫画家にもいえるようだ。〈漫画家への道は、ただただ書くこと、それ以外にない。〉と、ね。漫画家仲間で、このようなことをいいあったことがあった。〈ただ、ひたすら机にむかっている。机にしがみついている。一時でも離れてはいけない。机にしがみついていれば、その内に、ポッとアイデアがひらめき、それとばかりにイッキに描き上げてしまうものである。〉なんて、ね。
 〈問題は、書いたものが「他者にとって価値があるか」ということである。自分のための小説ならば、誰にでも簡単に書ける。他者にとって価値がなければ商品にならない。この意識が、書いているとき頭にあっただろうか。読者の視点を意識していただろうか。自分の満足のために書くのではない。読者を満足させるために、自分を犠牲にして書くのがプロのもの書きである。〉(本書より)
 これぞ「小説家という職業」なのか。とにかく、売れなくては話にならないようでもある。







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