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評者◆伊達政保
それは「日本革命水滸伝」となった筈だ――朝倉喬司の遺稿『活劇 日本共産党』(本体三〇〇〇円、毎日新聞社)
No.3011 ・ 2011年04月23日




 それは大震災から始まった。予兆かはたまた予感か朝倉喬司の遺稿『活劇 日本共産党』(毎日新聞社)は関東大震災の描写からスタートする。南葛飾の工場主南喜一は地震の救援活動に奮闘中、「南葛労働会」の一員である弟吉村光治の虐殺を知る事となる。後に言う「亀戸事件」である。
 第一章「南喜一、亀戸事件で殺された弟の恨みを晴らさんと非合法共産党員となる」。第二章「徳田球一、「琉球人(じきじん)」から「革命家」に転生し、日本革命の前衛を猪突猛進する」。第三章「田中清玄、「党」の再建と武装化に力を尽くすも入獄、獄中で母の遺書を読む」。
 各章のタイトルでも分かるように、列伝風に描写された大正末から昭和の日本共産党史である。当然、現在の日本共産党の正史からは、転向者、反対派という理由で、修正、削除、抹殺された人々である。結成から現在に至るまで、終始一貫マルクス・レーニン主義(最近はその看板をあまり言わなくなったようだが)の「正しい」路線を歩み続けてきた日本共産党の歴史と比べ、波瀾万丈、まさにタイトルどおりの「活劇」なのだ。巻末の解説で船戸与一は明治期の「博徒と自由民権運動」に、彼らと共産主義運動は相似する側面があると指摘している。となるとそれこそ朝倉喬司の独壇場ではないか。
 民衆が内に抱え持つ叛逆のフォークロアを「遊歌遊侠」(書名でもある)を媒介として汲み取る作業を、船戸氏が解説で触れていた『明治・破獄協奏曲』(毎日新聞社)や『走れ国定忠治』(現代書館)など多くの著作で行ってきた。そして以前にこの欄でも触れた『戦争の日々』上下(現代書館)では、独自の朝倉史観とも言うべきものを打ち出しつつあった。そうした著作を踏まえて本書があるのだ。その後には続篇として、「スパイM」、「戦後共産党の武装闘争」、「在日朝鮮人による『祖国防衛隊』」、「昭和40年代のアナキスト系ベトナム反戦運動と反植民地主義闘争」などの社会変革運動史が構想されていたという。
 だれも言わないからオイラが言ってしまおう。それは「日本革命水滸伝」となるものであった筈だ。平岡正明著『闇市水滸伝』(昭和48年、第三文明社)で、朝倉喬二(司)は二つの章を担当している。方法論、タイトルの付け方は本書と同じだ。喧嘩分かれしてしまった平岡氏亡き後、著者は『闇市水滸伝』を独自の観点で発展展開しようとしていたのではなかったか。また遺された著者の蔵書には笠原和夫のシナリオ『実録・共産党(未映画化)、日本暗殺秘録』があった。参考文献としてだけではなく、民衆史として共通の感覚を見たのだと思う。
(評論家)







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