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評者◆小嵐九八郎
大自然への畏怖、大自然の凄みと無限の恵みの本――野添憲治著『マタギのむら――民俗の宝庫・阿仁を歩く』(本体二一〇〇円・社会評論社)
No.3009 ・ 2011年04月09日




 この原稿を書いている二〇一一年三月二十三日は、東日本大地震の日からまる十二日が経っている。人類は、デカルトによる人間の知性万能によって裏づけられた産業革命以来、自然を利用する対象や儲けの対象としてきたツケ、限界、浅はかさに見舞われている。
 柄にもなく書けば、老子のいう「人は地に法り、地は天に法り、天は道に法り、道は自然に法る」の「道は自然に法る」を考えた方がよろしいし、当方の好きな荘子の思いを約めれば、「人間は大自然の一欠けら、大宇宙の塵」をきっちり再検討し、生かした方がいいような。小賢しく、「科学万能、エネルギー節約、安全安全」と四、五十年前から原子力発電を叫んで、すすめてきた学者には『老子』と『荘子』を読んでほしいもの。前者は、ちょっぴり政治臭いけど。
 こういう時に、大自然への畏怖、大自然の凄みと無限の恵みの本に出会えて幸せだった。野添憲治さんの著、『マタギのむら――民俗の宝庫・阿仁を歩く』(社会評論社、本体2100円)である。二〇〇六年刊『みちのく・民の語り1 マタギを生業にした人たち』を、俺は読んでいるが、これをかなり増補し、改題、新しい編集のもとで先月出版された。つまり、根本のテーマを、立ちションしながらのテレビや文章のルポとはぜんぜん異なり、生活を十年以上共にした記録や、稀有に残っている民話のごついじゃんご弁(すんません、我が故郷の能代の〝いなか弁〟、つまり、生生しく、土そのものの土着語という意味だ)を収録したり、マタギをやっていた古老との対話で実現していて、増補前の本もかなり人気であった。
 マタギって何かって? 当方も老い、残りの人生が少ないので、こういう質問に、いちいち答えたくない。でも、熊を、あるいはウサギを、テンを、カモシカを鉄砲などで仕止める職業の人だ。これの全てが、解るのがこの本。マタギの村の大自然の話もある。
 知っている人は知ってる通り、野添憲治氏は、『シリーズ・花岡事件の人たち――中国人強制連行の記録』(全四巻、社会評論社)を出したあの人、童話も記すあの人、広く、深く、全宇宙を視野に入れているあの人だ。
(作家・歌人)







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