書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆秋竜山
雑文をめぐる冒険、の巻
No.3006 ・ 2011年03月19日




 『村上春樹 雑文集』(新潮社、本体一四〇〇円)を読む。〈1979-2010 未収録の作品、未発表の文章を村上春樹がセレクトした69篇〉。いい小説を書く人は、話が面白い。何を話してくれるかな? という期待感もある。やっぱり、面白かったということになる。不思議である。どんな話でも面白いことになる。発する言葉のすべてが面白くなってしまう。やっぱり不思議だ。いい小説を書いているから、話が面白いのか、話が面白いから、いい小説を書けるのか、ということ。いい小説を書いている人が無口であっても、その無口ぶりが面白い。
 〈作家としてデビューしてから三十年余り、あれこれの目的、あちこちの場所のために書いてきて、これまで単行本としては発表されなかった文章がここに集められています。〉(前書――どこまでも雑多な心持ち)
 本書は、雑文の面白さである(雑文という言葉のひびきがなんともいい。変ななつかしさがある)。今はエッセイというのか。たとえば出版社から「数ページのエッセイをお願いします」とあった場合。そして「数ページの雑文をお願いします」の場合、「エッ!! 雑文ですか。エッセイではなく雑文ですね」なんて、念を押したりする。雑文といわれて、喜ぶべきところだが、ね。本書では、「小説」とか「小説家」という文字がいっぱい出てくる。その個所だけをひろい読みしても面白い。
 〈小説家とは、もっとも基本的な定義によれば、物語を語る人間のことである。人類がまだ湿っぽい洞窟に住んで、堅い本の根を齧ったり、やせた野ネズミの肉を焙って食べていたりしていた太古の時代から、人々は飽きることなく物語を語り続けてきた。たき火のそばで身を寄せ合って、友好的とはお世辞にも言えない獣や、厳しい気候から身を護りながら、長い暗い夜を過ごすとき、物語の交換は彼らにとって欠かすことのできない娯楽であったはずだ。〉(物語の善きサイクル)
 なるほど!! 小説家とは、そーいうものかと、わかりやすくて、やたらとムズカシ~い文章を並べたててある小説家の定義などとくらべものにならないものだ。原始時代の洞窟生活の中で、いい物語を聞いたり、いい小説本を読んだりしたいものだ。
 〈作家はどちらかといえば孤独な職業である。一人きりで書斎にこもり、何時間も机の前に座り、意識を集中して文字の配列と格闘する。そのような作業が、来る日も来る日も続くことになる。〉(本書より)
 よく、「アイデアの浮ぶ方法は」という質問がある。そんな時の答えは「たとえ地震で家がつぶれたとしても机の前から離れないことである。離れさえしなければ、その内にアイデアがひらめいたりするものだ」と、いうことだ。だからといって、机の前に座り、いねむりをしていては、なんにもならないだろう。不思議なことは、いねむりしている中で夢をみる。大ケッサクと思うほどのアイデアが浮ぶ夢だ。ねむってはいられないと目をさます。目をさますべきではないことがわかる。夢の中のアイデアほどつまらなくてくだらないものはないということだ。夢の中で、感動したアイデアが、現実にかえると、なぜ、くだらないものになってしまうのか。それがどーしてなのか、いくら考えてもわからない。凡人の夢だからかしら。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約