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評者◆添田馨
「樹羅」の話(2)――樹木に語りかけられた言葉ならぬ言葉が「詩」になるまで
No.3005 ・ 2011年03月12日




(承前)“樹羅”が夢の表象として出現した樹木のイメージであることは前回ここで述べたが、そのことは“樹羅”が、私の無意識のなかに深く根を張る生命現象としての意味を持っていることをも示唆している。
 その一方でしばしば私は、まぎれもなくこの現実の世界を虫のように這いずり回っている折に、突然、目のまえに現れた樹木たちがみるみるその存在感を増していき、隠れたメッセージを沈黙の響きのうちに伝えようとする彼等の不可思議な意思を、はっきりと感じることがあった。
 夢と現実、意識と無意識のあいだの、ちょうどその境界あたりを往還する超越的な“けはい”が、現世の樹木の生命力と呼応しあって、みずからの形象をそこへ二重に映しだしたということなのかもしれない。いずれにせよ、私は目のまえに視えている一本の樹木が、夢のなかで現れるあの神々しいまでの“樹羅”へとみるみる変貌していく瞬間に、これまで幾度となく遭遇したのである。
 そして、私にとってそれが特筆に値する出来事だと思われるようになったのは、こうした樹木との交感が、耳には聞こえないが言葉ならぬ言葉の体験と呼べるものを、間違いなくその内部に含んでいたからなのである。
 樹木が語りかけてくる、などと真顔で言ったら、恐らく私は笑い話のネタになるに違いない。だが、私の無意識が樹木の存在そのものと、その瞬間、即融的な関係において同調してしまっているのだと考えたらどうだろう。無論のこと、それを証明する手立ては何もないが、そのとき樹木が語りかけてきた言葉ならぬ言葉は、私にとってきわめて親密で、かつ本質的なもののように、事実、思われたのだった。私のなかで、その記憶は薄れるどころかその後もどんどん膨らみ続け、ついには現実世界から漏れだして夢の領域にまで逆流する事態にたち至ったことも、ここに記しておくべきだろう。
 いずれにせよ、“樹羅”の言葉は何らかの方法で表現されなければならなかった。その時、私にはそれを「詩」として表現するしか、まるで方途が思いつかなかったのである。
(続)
(詩人・批評家)







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