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評者◆福田信夫
大逆事件を描いた力作多数――創刊23年目、同人誌の古典となるであろう『群系』26号の〈特集・大逆事件と文学〉、新村忠雄についての豊富なエピソードに事欠かない「百年後の友へ」(崎村裕、『構想』49号)
No.3004 ・ 2011年03月05日




 『群系』26号は〈特集・大逆事件と文学〉であり、永野悟「大逆事件とは何か――秋水、須賀子、平出修、啄木から――」を巻頭に野寄勉「奥宮健之の描かれ方――魅了された尾崎士郎・松本清張――」、安宅夏夫「夏目漱石と堺利彦」など読ませる8編を中心に据えたほか、「参考図書解題」として田中伸尚、神崎清、中村文雄、野口存彌、高澤秀次らの大逆事件関係の著書など15冊を同人が紹介していて親切なアイデアだ。特に野寄は安宅、永野の各4編を越す7編を執筆しており、昭和の小林多喜二ら、横浜事件のように日本の権力(司法・法曹を含む)の内実が百年前のままであることを証す同誌ならではの創刊23年目の勲であり、同人誌の古典となろう。
 『構想』49号の崎村裕「百年後の友へ――小説 大逆事件の新村忠雄――(第一回)」は明治44年1月に死刑を執行された同郷の新村忠雄の24年の生涯をつぶさに描いたもので長野県内の当時の様相が明かされるとともに新村忠雄が創刊した『高原文学』の内容と役割、『東北文学』と『熊本評論』との関わり、また三誌の終刊までの事情など豊富なエピソードに事欠かない。
 『遊民』2号の大牧冨士夫「多喜二の母を訪ねた――セピア色の記憶――」は、一九五九年秋に札幌市で開かれた既製服の見本市に業界紙記者として岐阜から駈けつけた筆者が小樽市に佐藤セキさんを訪ねると、「遠いところをよく来た、ぜひ泊まってゆくようにとのっけに勧めてくれた。」「多喜二の着物姿の写真、商業学校のころ描いたという油絵、写真帳などとともに、仕舞ってあった多喜二のデスマスクもわざわざ取り出してきてくれた。」という姿に自らの母や祖母の姿を重ね合わせる。同誌の同人6名の平均年齢は76歳で、山下智恵子の小説「鹿に会う」や稲垣喜代志「怪人・唐九郎伝説(Ⅱ)――ロマンを追いつづけた美の巨人――」、伊藤幹彦「八歳の危険分子――なぜ校長室に呼ばれたのか――」など年季の入った随想が並ぶが、若き日の唐九郎のキリスト教伝道活動と恋愛、瀬戸古窯跡の発掘・収集調査に教えられた。
 『時間と空間』64号の北岡善寿「一読者の戯言」は、佐々木基一と同じように一度だけ原民喜と会ったことのある筆者が、『近代文学』の佐々木、本多秋五、平野謙や『白樺派』と鴎外、乃木大将、朔太郎との関わり、長与による天皇退位論の秘話、藤村の『新生』に対する芥川の攻撃などを取り上げて面白い。こういう無手勝流のエッセイに会えるのも、あと何年か、と。同誌の河底尚吾「文化と文明(11)――テロリズムとクーデタ」は、幕末の尊王、公武合体、王政復古、攘夷、開国、反幕、佐幕、倒幕という時流の様子を「尊王を核にして朝廷と幕府は公武合体で手をにぎった。(中略)しかし一般庶民は公家や武家の合体など問題ではない。日常必需品の不足、物価の高騰、年貢の取立てこそ大問題であり、そのために各地で農民一揆がおこった。」とし、当時の動乱の動きをトータルに捉える筆力に感服する。
 『海塔』創刊45周年記念号は源哲麿「『海塔』の四十五年を顧みて」が、『文芸首都』横浜支部を前身として『海塔』が創刊された経緯を面白いエピソードを交えて一同人誌の歴史を綴っている。同誌は、小説、詩、随筆、翻訳で編まれているが、林虚太郎の短編「老人と雀」の飄逸さに惹かれた。
 次に追悼2誌。『amigo』64号は「高須賀昭夫・その死・その生」という巻末特集の追悼号で、去年三月に69歳で逝去した高須賀への10人の心のこもったもの。
 また『クレーン』32号は、中山茅集子ら3人が去年死去した沼田晃一への追悼文を寄せている。
 最後に『coto(コト)』20号(最終号)を。安田有とセンナヨオコが10年前に創刊し、年2回の刊行を続け、林哲夫、永井芳和、大橋信雅、つちや・すすむ、今村秀雄、佐伯修など常連の執筆者が力作を寄せ、その数は増えていたが、予定どおりなのか21名による満を持しての終刊号となった。
 安田は終刊する理由を、自らの心身の衰え、誤植を防げなかったこと、二十代、三十代の寄稿者が少なかった雑誌づくりしかできなかったことなどを挙げているが、評者から見れば、売れない古本屋稼業の傍らこれだけのものを同人誌でなく個人誌の形で拵えたことに御苦労さんでした、休息をできるだけ取って新たな事が始まることを楽しみにしています、と言いたい。
(敬称略)
(編集者)







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