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評者◆秋竜山
乙女は涙を流さない?、の巻
No.3003 ・ 2011年02月26日




 中野京子『「怖い絵」で人間を読む』(NHK出版生活人新書、本体一一〇〇円)を読む。「怖い絵」「怖い絵2」「怖い絵3」など、怖い絵シリーズを持つ著者。怖い絵の中の人間を観る、いや読む。 〈絵画、とりわけ十九世紀以前の絵は、「見て感じる」より「読む」のが先だと思われます。一枚の絵には、その時代特有の常識や文化、長い歴史が絡み、注文主の思惑や画家の計算、さらには意図的に隠されたシンボルに満ち満ちています。〉(はじめに)
 名画における「怖さ」には、恍惚がある。ボーッとさせる感性である。本書に〈凌辱の章―シーレ「死と乙女」〉がある。
 〈恐怖の源には死があります。死があってこそ生は輝き、生が輝くほどに死は恐怖を増してゆく。(略)どんな文化圏にあっても、絵の中の骸骨や髑髏が死のシンボルだと即座に理解できるのです。〉(本書より)
 死にガイコツ。生に乙女。という発想は、本書でカッコで〈男性の妄想はとどまるところを知らないというべきでしょうか?〉と述べられているが、〈美しい乙女を蹂躙する醜い死神〉ということか。これがもし、〈醜い乙女と美しいガイコツ〉 であったら、マンガか。「死と乙女」像を沢山残した、ハンス・バルドゥング。
 〈それほど有名とはいえない画家です。デューラー―こちらはドイツ最大の画家といわれます―の弟子で、一時はその後継者と目されていたようです。ただし、師と弟子は絵画への姿勢が正反対といっていいほどでした。デューラーが対象へ知的にアプローチし、常に理想化を目指したのに対し、バルドゥングは世界や人間を卑しいものと見倣し、露骨で悪趣味な絵画表現によって独特のいかがわしさを醸し出しました。彼の絵は一種のポルノとしての需要も多かったのではないかと思われます。〉(本書より)
 〈死と乙女のエロティックなモチーフはやがて飽きられ〉 と、いわれるが〈背後から死神の口づけを受け、涙を一筋流す乙女〉という絵画。豊満な裸婦、特に乙女にはドクロがなぜ似合うのか。これが、なぜポルノ的露悪的傾向にあるのか。なぜ、「死と乙女」のエロティックなモチーフが、飽きられるのか。永遠のテーマのようにも思えてくるのだが。やっぱり、男性的発想か。ベルギーの画家アントワーヌ・ヴィールツの「麗しのロジーヌ」という絵画がある。
 〈はちきれんばかりの若さを骸骨に見せつけ、余裕のまなざしを向ける乙女。彼女の姿が画面の三分の二を占めており、この分割においても、すでに乙女が死に勝っているとわかります。(略)この乙女の表情と溌剌とした肉体からは、たとえ死がそばにあっても生きている今を謳歌するのだという意志、自らの美を肯定する明るいエロティシズムが放たれています。全く新しい女性像といえましょう。〉(本書より)
 乙女の裸体に、たじろぐ骸骨となれば、これはもうマンガである。そして、ポルノ的でもなくなってしまう。やっぱり、バルドゥングの「死と乙女」のように乙女が、骸骨の強引な死の接吻を受けて、一筋の涙を流したほうがいい。たとえ、女の嘘涙、であったとしてもだ。骸骨はその嘘涙を知っての上か。







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