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評者◆内堀弘
コレクターの眼と足――蒐集とは無名の情熱によって叶うものだ
No.3003 ・ 2011年02月26日




某月某日。『JAPAN’S BICYCLE GUIDE』(日本自転車工業会刊)という本があって、日本の自転車、その部品などを紹介したカタログだ。カタログといっても200頁ほどのもので、本文は全て英文だから、外国向けに作られたのだろう。昭和30年を前後して、これは毎年出ていた。いや、今も出ているのかもしれないが、当時のものは前衛詩人北園克衛が編集し、ブックデザインも担当していた。
 もう何年か前のことだ。都市・建築関係の古書を専門とする「港や書店」が、このカタログが6冊ほどあると声をかけてくれた。「北園がやっているんですよ」といわれて、私は初めてそんな本があることを知った。値段を訊ねると、12万だったか15万だったか、もちろん人の足下を見るような本屋でない。それでも、現物を見ることもしないで「まあいいか」と思ったのは、情けないことだった。
 昨年の秋、北園克衛の展覧会(世田谷美術館)にあわせて、北園研究の第一人者であるジョン・ソルトさんの講演があった。その中で、このカタログを取り上げ「これは日本の優れたアートブックだ」とうっとりするような笑顔で紹介した。
 その話を「港や書店」にすると、「ソルトさんではないけど、やはり外国からのお客さんにお見せしたら、すぐに買ってくれました」というのだった。「やっぱりあれ買うよ」と言うつもりだった私は、ますます情けない。
 この前、渋谷の小さな映画館で『ハーブ&ドロシー』を観た。素敵なドキュメンタリーだった。元郵便局員と図書館職員の夫婦が(つまり普通に暮らす夫婦が)、こつこつと好きな現代美術の作品を買い蒐める。狭いアパートは積み上げた作品でもう天井までいっぱいだ。それでも若いアーティストやギャラリーを訪ね、作品を観る。夫婦の規準は一つで、彼(女)にとって「美しい」ということだ。そういうものと出会いたい。夕刻、「もう一軒まわれるね」と言って、街頭に消えていく老夫婦の姿は、それこそ美しかった。
 なるほど、蒐集とはこうした無名の情熱によって叶うものだ。心を入れ替えよう。それにしても何でも直ぐ影響される。あれこれを思いながら夕刻の宮益坂を下っていく。
(古書店主)







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