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評者◆内堀弘
なないろ文庫の終り――最後までしなやかな印象を残した田村治芳さん
No.3000 ・ 2011年02月05日




 元日の朝、なないろ文庫ふしぎ堂の田村治芳さんが亡くなった。60歳だった。古本屋のかたわら古書の専門誌『彷書月刊』の編集長を務め、この雑誌が昨年の十月に通巻三百号で終わったところだった。
 田村さんと初めて会ったのは一九八〇年の夏。私は小さな古本屋をはじめたばかりだった。
 背中にとどくほどの長髪で、古本屋というより、部活の先輩という感じだった。単位はほとんど取れていないのに(つまり成績は悪いのに)文学や本のことはよく知っている。古書業界は今よりずっと旧弊だったから、田村さんのそんな自由な雰囲気にホッとしたものだった。そのしなやかな印象は最後まで変わらない。『彷書月刊』の創刊は一九八五年だった。田村さんは誰よりも古本屋が好きだったけれど、商売はそう上手でなかった。むしろミニコミ作りがこの人の真骨頂で、古本の面白さ、古本屋の楽しさをそこで伝えていった。本当に部活の人だ。そして、この小さな雑誌が、閉鎖的だった古書業界に風穴をあけていく。
 二年ほど前に食道癌が見つかった。いつだったか、見舞いに行くと小三治の文庫本を読んでいて、「独演会がやりたい」と言うのだった。人前で「ようするに、こうである」みたいなことを喋るのが大好きだった。大泉、西荻、千駄木での独演会が実現すると、どこの聴衆にも若い人が多いのに驚いた。田村さんが雑本、雑読こそ古本屋の原点であると話すのを、そういえば三十年前、私が初めて会ったときもそんなことを聞いたような気がした。
 田村さん、それではもう古本屋は食べてはいけないんだよ。しみじみそう思うのだけど、でもそれをなくしたら、たしかに私たちは古本屋ではなくなってしまう。そんな話も、田村さんともっとしたかった。
 葬儀には600名もの会葬者があった。老舗の大旦那が亡くなってもこんなに大勢の人がお別れに来ることはない。本が好き、読むのが好き、本の話が好き、そんな人たちが、冷たい風が吹く中、いつまでも長い列を作った。この人らしい、いや本当に古本屋らしいラストシーンだった。
(古書店主)







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