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評者◆小嵐九八郎
文学が世界を変革し、人々を滾らせる――佐々木中著『切りとれ、あの祈る手を――〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』(本体二〇〇〇円、河出書房新社)
No.2997 ・ 2011年01月15日




 今年は、おっと、これが載るのは来年正月、えーと、正確に記すと二〇一〇年九月に、小室直樹氏が死んだ。がっくり。この欄で、いつか、いつか、と思いながら、でか過ぎて、象の皮を這う蚊みたいと知り、ついに書けなかった。なんと、ソ連の崩壊を一九八〇年ごろ、つまりソ連の潰れる十年ぐらい前に、きっちり予告していた人だ。学問は大切、重大、凄いと考える。数学を勉強し、経済学を学び、計量経済学を追い、社会学や心理学を修め、政治学まで吸収したからこそ、ソ連の自壊を予見できたはず。俺は現役活動家だったので、「こりゃ、反共学者め」としか思わなかったわけで、恥じ入る。
 そんで、きっちり、学問の境を越えて研究している人に、いや、そういう人が喋り、それを一冊にした本に出会い、改めて九八郎はおのれの無知、ブンガク(おっと、これからは、ちゃんと”文学”と表記しようとすら考えた)及びゲージツ(これも”藝術”という漢字にしなければならんとも)への浅はかなニヒリズム、人類史の終末の感覚を引っ繰り返さねばならないかもと、吐息をついた年の瀬である。ぎりり、学の国境を踏んづけた本が、また出た。
 佐々木中氏の、『切りとれ、あの祈る手を』、サブタイトルは『〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』、出版社は河出書房新社、値段は税別二〇〇〇円だ。
 「革命は、また、起きる」旨を言うのだ。
 ただし、この”革命”は、文学によってである。文学が、世界を変革し、人人を滾らせ、まま暴力が溢れるとしてもそれは副次であり、まだまだ可能であると、世界史の宗教、哲学、小説、詩、思想、経験を分析し、情熱によって示している。
 我々は宗教改革と高校時代に知ったルターのあやふやな知識の中の、彼の文学者としての、全世界の転覆、歌やダンスの導入、ナショナリティとしてのドイツ語の確立、ムハンマド、つまりイスラム教の始祖の女性性と”読む”という決定的な営為の意味、人類史の種として保存期間の残り三八〇万年への楽天性をゴリゴリ迫ってくる。
 心配なのは国宝級の極少数新左翼の諸君や、権威好きの共産党の皆さんが頭を抱えてしまう点か。あ、俺も……。
(作家・歌人)







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