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評者◆阿木津英
芸術のよろこびが欠落した時代――玉城徹著『左岸だより』(短歌新聞社)が刊行されて
No.2996 ・ 2011年01月01日




 昨2010年の歌壇の最も大きな出来事を一つあげよというなら、7月の玉城徹逝去になろう。その仕事と歌人としての存在の全貌はいまだ誰も掴んではおらず、文字に残った発言はなお生き続けてわたしたちを励起する。
 その玉城が、主宰誌『うた』廃刊後、2004年2月から2010年4月まで、70回にわたって発行した不定期刊「左岸だより」が、年末、分厚い一冊となって短歌新聞社から刊行された。もともと「わたしが親しいと(自分で、勝手に)感ずる方方に、私信がわりに」送ったごく少部数の個人印刷物で、ジャーナリズム関係などには送っていなかった。
 歌や文章や、おりおりの感想がぎっしりと詰まっているが、あらためて拾い読みしつつ思われることがある。玉城徹は、二十世紀芸術の時代となって、とりわけ末流のわたしたちが大きく欠落させてしまったものをつねにもどかしげに指摘していた。それは、芸術を味わうよろこび――。
 「いつから、賞の数が、こんなに殖えたのであろう。昔のすぐれた芸術家は、作品そのものが、作者に対しての褒美だと考えよと教えたではないか。今の賞は、作者を少しも高めるものではない」「真の才能は、人人に芸術のよろこびを与えてくれる。十八世紀フランスのワトーの絵は何と美しいか。どんなに讃えても、讃え尽くせないほどである」「美しいものは、わたしたちの魂を成長させてくれる。あれこれと解説は必要ない」「自然(世界)に対する真実だけが、わたしたちに喜びを与え、わたしたちを善くしてくれる」「短歌も同じである。善いものを善いなと感ずることが肝要である。だから解説を聴いては駄目だ」「あれは善かった。あれは偉大だった。そういう讃嘆の心こそ、わたしたちに生命を与えてくれるのである」。(第五十四回、2008.9.18)
 小賢しい解説も知識もいらない。すはだかのまま、芸術と向き合って感応する無垢なよろこび。善いものを善いと感ずる讃嘆のこころ。そういう生命を成長させてくれる芸術のよろこびが、似て非なるものの快感に置き換えられてしまっている。
 欠落した〈本当に善いもの〉を探し当てる力を、わたしたちはまだ持っているのだろうか。
(歌人)







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