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評者◆秋竜山
人間とロボットのあいだ、の巻
No.2995 ・ 2010年12月25日




 かって、ドッキリひとこと、子供が「なぜ、人を殺してはいけないのですか?」。人を殺してはいけないのは当り前のことである。当たり前であり過ぎるから、考えることもなかった。考えるという発想もなかった。ところが、突然に「なぜ?」と、つきつけられる。「なぜ?」「なぜ?」を、つきつける。他人に自分に。禅の世界か、哲学か。福岡伸一『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書、本体七四〇円)で、そういえばそーだのひとこと。〈生命とは何か、皆さんは定義できますか?〉本書を読み出す、プロローグの冒頭である。
 〈私はふと大学に入りたての頃、生物学の時間に教師が問うた言葉を思い出す。人は瞬時に、生物と無生物を見分けるけれど、それは生物の何を見ているのでしょうか。そもそも、生物とは何か、皆さん定義できますか?〉(本書より)
 あらためて、定義するということほどむずかしいものはない。それは、なにかを定義づけることである。本質がわからないなら、定義できるわけがないだろう。
 〈なにかを定義するとき、属性を挙げて対象を記述することは比較的たやすい。しかし、対象の本質を明示的に記述することはまったくたやすいことではない。〉(本書より)
 本書を面白がって読むことができるということは、まず、このことを面白がることができなければならないということである。感性である。著者の感性もミリョク的だ。まず本書はここから始まる。
 〈私は今、多摩川にほど近い場所に住んでいて、よく水辺を散策する。川面を吹き渡ってくる風を心地よく感じながら、陽光の反射をかわして水の中を覗き込むと、そこには実にさまざまな生命が息づいていることを知る。水面から突き出た小さな三角形の石に見えたものが亀の鼻先だったり、流れにたゆたう糸くずと思えたものが稚魚の群れだったり、あるいは水草に絡まった塵芥と映ったものが、トンボのヤゴであったりする。〉(本書より)
 まるで、文学作品を読み始めるような気分である。実は私も、このような光景の中を歩くことが好きだった(昔であって、今はそんなことはなくなってしまったが)。私の場合は、海辺であった。海辺に家があったせいであった。海辺を一人で歩く。波打ちぎわ。何かが落ちている。特に台風の後などは打ち寄せられたゴミ。そのゴミこそが、私にとってはお宝であった。そして、私の場合は、そのお宝を家に持っていっては眺めたりしていたものだが、その内にどこかへいってしまった。それで、終わりであった。次のお宝ということになる。その繰り返しであった。著者のように〈生命とは何か〉などという方向へは発展しなかった。〈生命とは何か? それは自己複製を行うシステムである。〉と著者はいう。
 〈分子生物学的な生命観に立つと、生命体とはミクロなパーツからなる精巧なプラモデル、すなわち分子機械に過ぎないといえる〉(本書より)
 分子ロボットってことかしら? しかし、よく考えてみると、これから未来にむかって、ロボットがどんどん開発されていくと、ロボットも生命体ということになるのではないだろうか。ロボットと人間を見きわめるのが困難な時代ということか。







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