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評者◆小嵐九八郎
思想界に震動を生じさせる書が出た――大澤信亮著『神的批評』(本体二〇〇〇円、新潮社)
No.2994 ・ 2010年12月18日




 マゾヒストの要素は誰でも持っているのだろうが、性愛を除いて、俺もその一人。つくづく、人生の根っこのテーマを中途半端にしか追えない、その上、老いがきていて、そろそろ解を自分なりに出さなければいけないのに、ずるり、するりと後回しにして、酔っぱらって童謡を独り歌い、藤山一郎と淡谷のり子と美空ひばりと高倉健の演歌を唸り、発表する場は限られているのに五七五七七をひねり、駄目、役立たず(当たり前か)、モテないのに助平と自分が嫌になる。
 ま、しかし、うすうすは、残りの人生のテーマが何かについては、一つ、生死、とりわけ死に至る際の「よっしゃア、いってきますぜえ」の覚悟、二つ、暴力と非・反・是の考え、ま、ゲバルトの青春時代から二十ウン年間も拘わってきたのでしゃーないのですな、三つ、今日と明日のリアルな課題、糧食の元の銭、国の政治や社会や文化と家族と親しい友達のこと、無論、あかの他人のことが重大と知った上で。
 三つ目のことには答える本ではないけれど、一つ二つに、まこと誠実に答え、批評する自身に自身が問い続け、しかも、最も、現代人にとって好奇心を与える、ロマンに満ちて純粋と映る宮澤賢治、最後の思想家との印象に勝る柄谷行人氏、不思議と歴史の進歩など疑いたくなる『遠野物語』の柳田國男、よく解らんけど美・食・女にこだわった北大路魯山人を論じた思想書が出た。
 一九七六年生まれというから、三十四歳か、大澤信亮さんの『神的批評』(新潮社、本体2000円)である。
 週刊誌からの注文でごく短い書評を書いたけど書き切れなかった。九八郎めが、三年に一度のコーフンに陥った本である。人間が、人間を、生き物を、存在する全てを傷つけ、食い、殺すという命運の源にいることを繰り返し新約聖書のイエスの生きようにも触れ、でも、生身の人物を大澤信亮さん自身に、そして、読み手に問うのである。思想界は、この一冊でかなりの震動が生ずるはず。もっとも、思想界は狭く、狭く、新たな権威主義そのもので。
(作家・歌人)







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