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評者◆伊達政保
右翼、左翼を問わず根底的なところを撃つ――金子遊監督『ベオグラード1999』(幻視社)
No.2993 ・ 2010年12月11日




 ナショナリズムの衣を着た親米愛国なる、まさにブラックユーモアとしか言い様がない論理に基づいた、反中、反露、嫌韓の排外主義運動がはびこる今日、このドキュメンタリー映画が製作され公開されたことは重要な意味を持っている。金子遊監督『ベオグラード1999』(幻視社)は自殺した彼女へのオマージュとしてナショナリズムへの旅をその基底としている。問われるのは、ナショナリズム、政治、権力、運動、個人、そして命。
 1999年、彼女とのイラクの音楽祭行きからその旅は始まる。ナショナリズムの原点を保持し、反米愛国の論理的運動を展開する新右翼「一水会」の木村三浩と知り合う。彼女は一水会の事務所で働き、全共闘世代二世の監督は木村の活動を記録していくことになる。ナショナリズムのインターナショナル・ネットワーク(?反米ネットワーク)構築の為、(今は無き)ユーゴスラビアの空爆の跡も生々しい首都ベオグラードへ木村と同行。ナショナリズムの高まりと、そうした人々のコネを通して現地の大物と会談を重ねていく木村の、活動家から政治家に変わってゆく姿に、権力の生成過程を見ることになる。オイラもミクロネシアやレバノン、シリアでの活動の経験から、そうした経過がよく分かるのだ。しかし、各々のナショナリズムが衝突するバルカン半島の現場に、ナショナリズムの連帯を求めに行くというのは、反米だけならまだしも根源的認識が不足していたのではないかと思うのだが。
 帰国後、木村は一水会代表に就任。そのパーティーにずらりと並んだ個性ある人脈は、前代表鈴木邦男が作り上げたこともあってか非常に面白い(映画を見てのお楽しみ)。そして憂国政党を作り国会議員となる為の運動を展開してゆく。そうした運動論に対する感性の違いか、金子監督は一水会から疎遠となり、映像も封印された。その後、彼女も一水会を辞め、数年後には自殺してしまう。十年後、それを契機に監督は再び映像を撮り始める。
 木村に運動や彼女の死を問い掛けるが、政治が権力に向かう時、国家や組織、公が個人の上に置かれ、命もまた政治の為のものとして、自殺が自決、自栽と言い換えられ肯定される論点に、監督は同意出来ない。そこでこの映画は終わる。
 運動の為の組織が組織の為の運動となり、個々の為の運動が運動の為の個々となる。こうした桎梏を否定し、乗り越えようとした運動が全共闘運動であった。この問題意識が全共闘世代の子供である監督に、この映画を作ることによって継承されたのだ。このドキュメンタリーは右翼、左翼を問わずその根底的なところを撃っている。
(評論家)







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