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評者◆内堀弘
プライヴェートプレスの執念――新版『左川ちか全詩集』(森開社)には、その後に発掘した新たな作品の増補が
No.2992 ・ 2010年12月04日




某月某日。森開社から『左川ちか全詩集(新版)』の案内葉書が届いた。左川ちかは昭和初期に颯爽と登場したモダニズムの女性詩人で、24歳の若さで夭折している。
 森開社が最初に左川ちかの詩集を出したのは1983年のことだった。私は29歳、郊外で小さな古本屋をはじめたばかりだった。
 1970年から80年にかけて、個性的な小出版社がいくつも登場した。牧神社、仮面社、冥草社、林檎舎と名前をあげれば、そこが送り出した書物が思い浮かぶ。森開社もその一つで、小野夕馥さんの個人出版社(プライヴェートプレス)だった。
 小野さんは古書展の常連で、とにかく丹念に資料を探していた。いつだったか江間章子さんのエッセイに「(小野さんは)まるで考古学者だ」と書かれていたが、本当にその通りだった。古書の世界には、もう見えなくなってしまったもの、もう聞こえなくなってしまったものが埋まっている。そのことを、私は小野さんから教えられたように思う。
 最初の『左川ちか全詩集』が出た頃だから、もう27年も昔のことだ。小野さんから次は山中富美子を必ずまとめると聞いた。初めて耳にする名前だったが、彼女もまた、昭和初期に十代で登場し二十代半ばで消えてしまったモダニズム詩人だと教えられた。
 小野さんともすっかりご無沙汰になっていたが、昨年の秋に『山中富美子詩集抄』(小野夕馥編)が刊行された。限定300部というその詩集を手にして、これがプライヴェートプレスの執念かとつくづく思ったものだ。
 私は古本屋だから、かつての書物文化の豊饒を糧にしている。途方もない作業、あるいは才気を丁寧に編集し、豪華ではないけれど、しかし紙や刷り綴じにまで細やかな気配りが感じられる書物は、なんと贅沢なものかと思う。椎の木社やボン書店、昭森社など戦前の小出版社の佳き精神は、戦後も書肆ユリイカ、湯川書房と受け継がれ、森開社もそこにある。
 新版の『左川ちか全詩集』には、この25年の間に発掘した新たな作品を増補するという。つくづく、書物は著者だけの作品ではない。
(古書店主)







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