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評者◆秋竜山
なんとなく、日本語的人間、の巻
No.2991 ・ 2010年11月27日




 目次によって、どうしようかということになる。佐々木健一『日本的感性――触覚とずらしの構造』(中公新書、本体八六〇円)の、目次を見て、面白い本であると、自分で決めつけてしまう。〈なんとなくの心情、・そこはかとなく ・なにとなく ・さだめし〉というのが目次にある。そして、
 〈わたしが子供のころ流行っていた歌に、「あっあのひとと別れた夜は、ただなんとなく面倒くさくて……」(菊田一夫「フランチェスカの鐘」)という一節があり、子供心に自堕落な歌だ、と思っていた(そのとき「自堕落」などという単語を知っていたはずはないけれど)。〉(本書より)
 アア……なつかしい。昔の歌だ。著者がそうであったように、私なんかも子供で、この歌を口ずさんだものであった。この歌詞に何かを感じたものであった。子供心に大人じみた思いをよせた。〈ただなんとなく面倒くさくて……〉の歌詞から、「ただなんとなく、面倒くさくて……」という言葉をおぼえた。戦後の大人の女性の〈ただなんとなく……〉からエロチシズムを感じ、〈面倒くさい……〉というのも。マセた子供であったのかしら。
 〈大人たちの言う「アプレ・ゲール」(文字通りには「戦後」)の風俗の一端だと、後になってもわたしは受け止めていた。〉(本書より)
 それにしても非常に便利な言葉である。「ただなんとなく体調がすぐれないもので……」と、病院へ行って医師につげるのに、もってこい。体調がすぐれなければ面倒くさくなるものだ。
 〈西行、俊成、定家らがこの表現を好んだことは明らかだが、(略)まず西行。 何となく暮ゝるしづりのおとまでも雪あはれなる深草の里(「山家集」五三八番)「しづり」は木の枝から落ちる雪を指す。深草の里では、なぜかは知らず、しづりの雪の音までが、あわれに感じられる、といううたである。〉(本書より)
 やっぱりコレも、「ただなんとなく……」だろうか。
 〈次は俊成である。 何となく物あはれにもみゆるかな霞や旅の心なるらむ(「玉葉集」一一二八番)「旅の途上で霞に出会うと、なぜだかあわれを感ずる。霞は旅の精髄であるらしい」というのである。〉(本書より)
 コレも、「ただなんとなく……」だろうか。
 〈次の定家のうたに見られる。 なにとなく過こし秋の数ごとにのち見る月のあはれとぞなる(「王葉集」六九六番〉(本書より)
 この歌とて、「ただなんとなく……」だろうか。私の感じだと、「ただなんとなく面倒くさくて……」の、あの歌謡曲の女性が、これらの歌を詠んだとしてもピッタリしてくるようだ。西行も俊成も定家も、「ただなんとなく面倒くさくて……」的な人物だったのかもしれない。
 〈うた全体の意味(知覚や判断)を曖昧化するときよく生きてくるからである。〉〈広く信じられているらしき俗説に、日本語は曖昧だ、日本人は論理が苦手で、感覚的だ、という言い方、考え方がある。これによれば、感性はそれ自体が曖昧なものだ、ということになる。〉(本書より)
 「ただなんとなく」私も日本語的人間であると思った。







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